印刷用        不定期便  第26号
   
不定期便 26号 01011月2

電磁誘導ふしぎ

その

発行
2010年11月2
発行者
熊野宗治
     
 M氏への手紙 4

今回も引き続き、「IHヒーターのメカニズム」をさしあげたいと存じます。

IHヒーター   

前回では電磁気には基本的に
 @電流は磁場をつくるが、磁場は必ずしも電流を作らない。
 A磁場は磁場が変化するときにだけ電流(起電力)を作る。
 という性質があること、IHヒーターでコイルがN極を強めつつあるとき、N極の増加に対して、鍋底には誘導電流が生じ、それはN極を押し戻そうとする向きであることを見ました。
 もしも、N極磁束が増大させるようにコイルに電流が流れるとき、ヒータートップに何もないなら、その磁場変化に対する自己誘導によって加圧電流とは逆向きの起電力を生じ、電流を抑制するため電力は消費されないことを見ました。
  つぎに、鍋が非鉄の良導体であれば一次側からの磁場変動に対して反電流を生じ、鍋の電気抵抗がゼロなら発熱せず、電磁エネルギーとして一瞬間預かるだけで次の瞬間には電位の向きは逆転し、エネルギーはそっくり返済するため、

   この場合もほとんど電力は消費されないことを見ました。今回は鉄鍋の場合です。


鉄鍋を置く場合
 IHヒータートップに鉄鍋を置くと、電磁コイルの磁場によって鍋底では磁化つまり鍋の鉄原子をつくる電子の向きが整列するでしょう。このため鉄鍋につよい順磁場が生じます。この強い磁場変化に抗するように強い誘導電流(反電流)が発生します。
 強い反電流は一次側にとって自己誘導とおなじ作用ですが、反電流が流れようとする鉄鍋には電気抵抗があって勢いが削がれます。それだけ一次側電流を抑制する作用が減じ一次側電流はよく流れましょう。これは一次側で電力が消費されることに他なりません。
 非磁性良導体が、本来なら一次側からの磁界を斥け、エネルギーを受容すまいとするのに比べ、強い常磁性体の鉄鍋は受容することになります。
 エネルギー吸収をしようとしない良導体は、ちょうどスプリングや空気バネを押すときのように、縮むことでその歪み量を内部エネルギーとして貯め込み、力が去れば弾力的に戻る(内部エネルギーの放出あるいはポテンシャルの低下)弾性体に似ています。抵抗体のほうは、バネなら降伏変形、空気バネならエア漏れとして外部エネルギーを消費し、外部者はその結果仕事をします。これと同様、鉄鍋は一次側からの仕事を受け入れ発熱し発散します。
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 こうして鉄鍋は常に発熱し電力を消費します。これに対し、さっき見ましたように、銅鍋のほうは一次側からの磁場を内部エネルギー(反磁場ポテンシャル)として一瞬預かりますが、次の瞬間にはその全てを磁場ポテンシャルのまま一次側へ返します。その際一次側は自己誘導のため抑制されほとんど仕事をしません。電力を消費しません。もっとも、銅やアルミでも反電流は生じますから、抵抗があれば少しは発熱するでしょう。もしそれがまったく電気抵抗をもたない超伝導金属でできていれば、まったく一次側電力を消費しません。反面、反電流がつくる反磁場によって、持ち上げられるような力をうけるのはたしかであり、興味深いことです。IHヒーターでは交流ですから、持ち上げられたり引き付けられたりするわけで、鍋が軽い場合、その固有振動数が周波数の整数分の1(あるいは整数倍)となったとき振動として現れることになるかもしれません。


鉄鍋に起こること
 鉄鍋に起こることをもうすこし詳しく調べてみましょう。回型をした鉄芯の一辺に一次側コイルが巻かれ、他の一辺に二次コイルの巻かれた「トランス」というものがあります。IHヒータートップの下に隠されたコイルと鉄板との関係を、そのトランスに置き直して考えてみましょう。原理は同じですから。 いま一次側で電圧が増加しつつあって、このため鉄芯が磁化され磁束が増しつつあるとします。二次側ではこれを阻止しようとする誘導電流が生じるところです。しかし二次側コイルに負荷がかかっていないか、負荷が非常に大きい場合、反電流(誘導電流)は流れません。ですが起電力(電圧(ポテンシヤル))がゼロなわけではありません。一次側からの磁場(これもポテンシャルです)が鉄芯を通して変動していれば、それに応じて二次側でも誘導電圧は生じているのです。
  目に見える仕事としては現れませんが、電圧というポテンシャルは高まっています。しかし電流が流れなければ、使われるエネルギーはゼロ。重いものをどんなに力いっぱい押しても、動かなければ仕事をしないのと同様です。
 そこで、有限な抵抗を持つ導線で二次側を閉じます(循環路を完成する)と、反電流が実際に流れます。その電流は二次側へ及んでくる磁場を実際に打ち消し、一次側での自己誘導を減じさせ、いくぶんかの電流が流れるのを許すことになります。
 十分な巻数を持つ一次側では、元来、コイルが起こす磁場に対して、自身の自己誘導のため、電流は流れようとしながらも流れません。それが流れるのは、その流れのつくる磁場が二次側でする仕事として費やされる場合です。それはいかように仕事をするのでしょうか。

             

 二次側でもコイルはコイルに電気抵抗がなければ磁束の増加に対して反電流が生じて完璧に抑えるはずですが、コイルである導線に電気抵抗があるか抵抗のある導線(電熱線や電動モーターなど)で閉じられている場合には、可能なだけの電流が流れるでしょう。このとき電流のする仕事は、流れた電流の2乗にその抵抗値を乗じた量です。つまり、これに相当するだけの電磁エネルギーが、熱あるいはモーターなどの機械的エネルギーに変換されたわけです。それだけ反磁場は減少します。 こうして反磁場つまり抑制力の減じた二次側は、一時側から及ぶ磁場の増加を抑えきれず受容することになりましょう。その結果一次側では二次側で費やしたのと等量の電力消費として電流が流れます。これがさきほど「いくぶんか」と言った流れです。
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 その一次側電流は、それが流れる一次側コイルの電気抵抗がゼロである材料でつくられている限り、一次側での発熱としても機械的エネルギーとしても起こらず、電磁エネルギーの減少としてだけ表れます。減った電磁エネルギーは二次側へ移動し、二次側で熱や機械的エネルギーとして消費されたのです。すなわち一次側(供給側)で流れた電流を計量しさえすれば、電流あたり単価を乗じて、二次側で消費された仕事としての電気料金が算定されるわけです。

 ところでマクスウェル方程式は混雑した数式によってこれらの関係を見事に説明するかもしれませんが、数学とはなじみの薄いわれわれにとって、それを理解することは甚だ面倒で、そうしようと思えば数式やその表わす約束事を憶えるために長い長い時間を費やさなければなりません。ついさっき考えましたことは数式を使わないで、電磁現象がどのように起こっているかを推察したものです。言葉だけで考えようとすればお話ししてきた文字数で十分でしょう。
 メーカーが考えることは、いかに効率よくセンシティブに誘導現象を起こさせるかであり、電力会社がすることは、電機製品にいかに安定した電圧をかけて電力を消費させその電気量をきちんと測るかということです。それらはマクスウェル電磁気学をよく知らなくてもできるでしょう。





             







    
電子レンジの違い
  ここで、IHヒーターと紛らわしい電子レンジについて、どこが違うのかを確認しておくのがよいでしょう。電子レンジ(microwave oven )とは、電磁誘導ではなく電磁波の仲間であるマイクロ波を直接照射して生じる発熱により、食品などを加熱調理する装置(調理器具)です。
 電磁波の発生源としては、マグネトロンという真空管の一種が使われています。食品内部の分子にエネルギーを与えて直接加熱します。この意味ではIHヒーターよりもさらに直接的です。マイクロ波が照射されると、極性をもつ水分子を繋ぐ振動子がマイクロ波を吸収して振動・回転し、温度が上がることを利用しています。このため電磁波を透過させるガラスや陶磁器は直接的には加熱されません。


 マイクロ波は通信などで用いられてきましたが、これを加熱に使用するという着想は、全くの偶然から生まれたといいます。

 次回には、ふたたびIHヒーターの実際について考えてみようかと思います。





           
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