理論自体が物理学を破壊することもあれば、科学が生命環境を破壊することもある。
第6話 突き進む狂気
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宇宙エレベータ
「君、テレビや何かで、宇宙エレベータに関する番組を見たこと、ないですか?」
しばらく黙りこくっていた葦郎が不意に口を開いた。
地下階にも一群の研究室があって、それらに囲まれるようにしてあるこのラウンジは、すこし暗い。外の暗さが流れ込んでいるからであろう。外はサンクというか、光庭になっている。豊かな植え込みがつくられ、池に立つ壁面を伝って、音もなく滝が流れている。木々の先は青い空へ抜け、その梢から漏れくる光のせいか、このラウンジは、研究施設にしては珍しく風趣を湛えている。週明けからかかるつもりの実験のために準備作業をしていた二人は、ひと休みしているところだった。
葦郎が口にした宇宙エレベータとは、紐に通した五円玉のようなもので、その紐は地上から静止衛星までつながるのだという。五円玉がそのエレベータの箱に相当する。
「あるある。ちょっと目には興味を抱かせるね。じじつ自分も面白いと思ったことはある。…けど、賛成はしかねまんな」
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