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印刷用は 不定期便 第100号 |
不定期便 第100回 記念号 2014年
8月1日
物質構造と超伝導
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発行
2014年8月1日
発行者
熊野宗治 |
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これまでわれわれが実存と思っていた“質量”とは、究極的には空間の単なる一性質に過ぎず、その性質には互いに帳消しにしようとする少なくとも2種があってその和はゼロであり、空間の振動や波動は性質空間がつくるエネルギーおよび運動エネルギーという総計ゼロのエネルギーから、それぞれ貸借によって融通しあっているらしいことが分かりつつある。
最終的に知りたいことは、空間に生じた性質――“場”――についてであると言ってよいかもしれない。超伝導という物理は場の性質の中にその源泉があるのではないか。本節ではその超伝導についてよく考えてみたい。
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1 超伝導の革新 014/5/22
運動は止まらない
前に宇宙に存在する黒体放射のことを考えてみた。つまるところ、星間物質がいくら熱を放射しても、宇宙から飛来する光を新たに吸収している限りは、絶対零度にまで冷たくなることは出来ないわけである。走っている自分の速さを止めることもまた、足を摺り合わせるべき地面なしには出来ない。
宇宙空間を運動する物体は、まったく真空な空間にあって減速し自らの運動エネルギーをゼロにすることもまたできない。なぜならその運動エネルギーの一部でも、代わりに受け取ってくれる他の存在なしには同じエネルギーを持ち続ける――これがエネルギー保存の法則だ――からである。
原子の世界も摩擦はない
素粒子たちの世界でもまた、例えば、原子における外電子という粒以外に何もない真空な空間であるとすれば、粒が運動エネルギーを減じることはきわめて起こりにくい現象であるにちがいない。
起こるとすれば2通りあるとわたしは考える。エネルギーを他に貸すか、与えるかの場合である。「他に貸す」とは、例えば位置エネルギーや磁気エネルギーといった別の形で持ち続けることであり、「与える」とはエネルギーを他に譲渡し自らの運動エネルギーは減少または消滅する。
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跳躍のエネルギーを一時的にバネに溜め込みバネエネルギーを再び跳躍に変える“トランポリン”方式か、砂袋に着地して跳躍を摩擦熱として与え運動を終える“砂袋”方式かの2通りである。
原子たちの世界もわれわれの宇宙と同じように、素粒子たち相互間は極めてスカスカなものであるとすれば、“砂袋”方式はありにくいことであろう。
わたしは前者の方式を自然界で多くの現象を起こさせるメカニズムであるとして「貸借の法則」と名づけている。
宇宙で起こる衝突以外の天体運動は「エネルギー貸借の法則」に従っているとわたしは見ている。ちょうど、銀行に預けた(貸した)ために手持ちの現金は減るが、現金と預金との合計額が自分の財産であることに変わりはないのと同じだ。

低温で安定な骨組み
さて、鉄のような塊りがその塊りのまま、変形しようとしないのはなぜだろうか。形を保つのは、互いの原子同士の間隔を安定な現在位置で保とうとするから、であろうとわたしは推測する。
金属を静かに結晶させると、安定な動きを経て最終的にはいちばん安定な位置に落ち着くのだろう。その結果、原子の種類によってそれなりの規則正しい形状――結晶形――を形成するのであろう。

安定な形は原子の形からくる
先日ちょいと手に入ったので鉱物たちを並べてみる(写真0)。
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不定期便 第100号 |
写真の1は黄鉄鉱Pyrite(FeS2)の例である。立方体に別の立方体が陥没しているかにみえる。
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写真2の左は正8面体に割れた蛍石、右はアクアマリン(緑柱石Beryl)Al2Be3[Si6O18]の例である。
写真の3は方解石(Calcite)の例である。蛍石と方解石は金属ではないが、面白い形をとっている。これらに産地も記されている。
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3
これらは「Crystal World」という店(こちらではイーオンというモールの中にある)で求めた。驚くことに、誰でも気軽に買うことができる。驚いたのはその低廉さである。写真1は1個1900円、2の蛍石は420円、緑柱石は6角柱をしていて1575円、3の方解石は525円だ。
小さいアンモナイト化石はたしか千円札でお釣りがきて手に入る。小さい隕石片なら千円札で買えるのがある。興味を惹いた規則的な(幾何学的な)形で結晶している金属をいくつか買い求めたが、サイフから千円札7枚ほど取り出したらすべて買えた。
簡単な、しかし的確な説明のラベルが貼ってあって、透明なケースに入れてあったりする。
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興味あるこれら幾何学的な形は、人が苦心して研磨したものではなく、物質たちが自ら形づくっているものだ。さっき言った安定な場所に居座った原子たちの構造――結晶構造の結果にちがいない。
この美しい結晶の形から、原子たちは直角の角度を持って並び合っている。あるいは120度(60度)の角度を持って並び合っているのだろうと想像することができる。きちんと知りたい諸君はそれなりの専門書で学ばれたい。
磁石の根源はなにか
われわれはコイルに電流を流すと磁場が発生することを知っている。磁場は電子(あるいは陽子)の運動によって、その周囲に発生するものであるらしい。
電流を流さなくても磁力を持つ永久磁石はなぜ磁場を持っているのだろうか?
磁化した鉄は永久磁石になる。しかし、われわれは第89号で、コイルの中空の部分に磁場を発生させ得ることを知った。これらのことから、われわれは磁荷というものが無くても磁場は存在することができると考えるのが適当であろうことに気づいている。
そこで小生は、磁場は電子(陽子)の回転――これは電流と同じだ――で生じている、と結論してよいと考えている。その最も小さいものは1925年発表されたクローニッヒ、ウーレンベック、ハウトシュミットらの言う電子の“スピン”つまり自転である。
磁極はその性質上互いに頭と尾が引き合い、緊密に連なる。するとそれは渦のようにつながるだろう。つながるとさらに威力を増す。
竜巻
頑強な磁力をつける
強力な磁場を発生させる仕組みとしては、コイルに強力な電流を流せばよい。もし、そのまま電源を切ってもその電子が惰性でコイル中を回り続けてくれるなら、そのコイルを永久磁石的に利用することができるのではないだろうか。
学生時分の小生なら、「そんなことはできない」と答えたかもしれない。しかしそれができるのだ。
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もしその電子の惰性エネルギーを消費しないで単に“借用”にだけ利用するに留めるなら、永久磁石として使えることになろう。
例えばリニアモーターカーの車体を持ち上げるだけに使用し、それ以上の上昇あるいは加速・制動などに消費してしまわないならば、電子の惰性エネルギーを減衰させることなく使用可能ではないか、というわけである。
翻って、学校で学んだところによれば、コイルという導線は必ず電気抵抗を持っていて流れを止めてしまう。電流のエネルギーはどうなったかといえば、多くは熱となって消失するということをご存知のとおりだ。
2 天邪鬼力を利用した人間の技術 014/6/10
――超伝導の実用――
ところが近年の研究によれば、導線の温度を下げてゆけばその抵抗値が下がってくることが分かってきた。
さっき見た金属結晶格子が静かにしているとき、つまり絶対零度に近いとき、自由電子は原子を構成する素粒子たちに衝突することなく滑らかに走り続けるからであろう、とわたしは想像する。貸借関係のみが発生している“トランポリン”方式だ。
このように電気抵抗が急激にゼロとなる現象を、物質に起こっている“超伝導”と呼ばれている。それが今や現実の技術に利用されようとするところだ。
実用例としてMRI画像法とリニアモーターカーについて見ようと思う。
――磁場がもたらす医療――
MRI装置
磁場の性質について種々考慮してきた。体内臓器をあるがままの状態で画像に捉えるMRIの技術が近年の医療を飛躍的に進歩させていることはご存知だろう。 体構造の細部を立体的に詳しく見ることができるようになった。X線によるCTスキャンという方法は1953年頃から利用され始めた。脳内血管の一部に動脈瘤や狭窄がないかをその画像を見て診断することが可能になった。短時間の照射であるにしても、X線は遺伝子レベルでDNAに損傷を与える恐れがある。
片や磁場を用いるMRI画像法も、国内の大きな病院で利用されるようになってきた。
この“核磁気共鳴画像法に関する発見”に対して、医学における重要性と応用性が認められ、2003年ポール・ラウターバーとピーター・マンスフィールドにノーベル生理学・医学賞が与えられた。
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magnetic resonance
imagingの頭をとってMRI、これは核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMR)現象を用いて生体組織を画像化する方法である。それはどのような原理から画像が撮られるものであろうか。これを撮影するカメラはどこにどう仕込まれているのだろうか?

その原理
新しい情報が得やすいインターネットから、比較的たしかなウィキペディアや医学的資格試験対策のための講座らしいページなどからMRIについて調べてみた。
――陽子もスピンしている
これまでにぼくらが見てきたところによれば、電子は自転(スピン)しており、したがって電子自身が最小微小の磁石であることが認められる。電子よりも質量のはるかに大きい荷電粒子としては陽子(プロトン)がある。それが自転しているとすれば、陽子もまた同様に微小磁石となっているにちがいない。そこへ外から磁場をかけてやればどんなことが起こるだろうか。
――原子核に歳差運動を起こさせる
陽子磁石の頭と尾が外磁場から引かれ、すると独楽がそうであるように外磁場の向きを軸に歳差運動を始めるだろう。
MRIの装置はちくわのような丸い穴の開いた形状をしていて、おそらくこの穴方向に強力な磁場がかけられている。試みに、鉄製の筋トレ用腕輪をした大人の男性が近づくと、腕ごとひきつけられ、もう、一人では引き離すことができない。
オランダ・フィリップス製MRI装置

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被験者はベッドに寝た格好のままこの穴に入ってくる。被験者の体の3分の2は水である。この水H2Oのつくる水素の原子核は1つの陽子を持っている。それらのうち自転している原子核(陽子)は、卓上で回る独楽のように、回転軸と平行でない向きに力が加えられると、スピン陽子はその向きを軸とする歳差運動(首振り運動)をする。そのとき増加したエネルギーは、かけられた磁場の強さに比例する。
1図
以下、図は「Dr.study (コウメイ塾)」による
また、その陽子が属する組織(物質)いかんによって、磁場のエネルギーがどれくらい借用できるかの差異がある。

――歳差運動の個性を見つける
物体が装置に差し込まれると、その物質をつくっている水素原子の原子核には、強力な磁場によってその自転軸が振られ、一斉にみな同じ磁場方向を軸とする歳差運動を起こすわけだ。
2図
3図
自転ベクトルを示す青い矢先は円錐の円周上を回っているから、図では丸い陽子も円運動しているが、実際の陽子の重心は円錐の頂点で静止している。
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それらの勢いはその陽子の属する組織によって違いができる。
その違いを検出するためには、別なラジオ波を照射する。照射による磁場のためにさっきの歳差運動の軸がこの方向へ傾けられる。
4図
図では90度倒されているが、実際には中間的に、例えば45度傾くことになろう
5図
歳差運動の周波数はラーモア周波数と云われ各原子核特有の周波数で、かけた磁場の強さに比例する――かけた磁場と同周波数のときよく共鳴(エネルギー吸収)する。通常10〜60HZほどであって、ラジオ波の周波数範囲にあたる。
そのパルスの照射をやめると徐々に元の状態に戻る(共鳴エネルギーの返済に相当し、エコー信号として放出される、6図)。その核磁気共鳴信号の戻り速さは各組織によって異なる。
6図
この戻り方の違いから画像化するのだ。
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――信号の出所を特定する
さて、画像データとするにはその核磁気共鳴信号がどの位置から出たものであるかが特定されなければならない。そこで距離に比例した強度を持つさらに別の磁場(勾配磁場)をかける。この勾配磁場によって水素原子核の位相や周波数が変化する。
この観測結果を三次元フーリエ変換して個々の位置信号に分解し、画像データをつくる。つまり、カメラで撮影されるものではないのだ。元々、形のない、場所ごとのデータに過ぎない。
――MRI構成のまとめ
これらのMRIの原理を満たす原子核は1H以外にもたくさんあるが、1Hに比べれば微量のため画像にするには少なすぎる。人体の2/3が水であることを考慮すると、1Hで十分である。空気には陽子がほとんどないので画像は黒となる。
上述のようにMRIの構造は
1. 均一な磁場を形成する磁場(永久磁石や超伝導磁石による)
2. 傾斜磁場(勾配磁場)をつくる磁場コイル
3. 共鳴エネルギーを与える照射磁場
4. エコー信号を検出する受信コイル
という4つの磁場コイルと、得られた結果から画像に組み立てるための、
5. コンピュータシステム
から構成される。 |
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わたしの ギャラリー
写真 輿水
拙宅の 1階リビング 筆者の設計施工1995年です
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