R       不定期便  第102号
   
 
不定期便 102   014  91

     物質構造超伝導
発行
2014年9月1日
発行者
熊野宗治
 
     

リニアモーターへの応用  014/6/18




 
超伝導リニアの開発

――開発初期
 わが国の中央リニア新幹線(首都圏〜中京圏)2027年開業を目指している。
 磁気浮上方式の鉄道にはドイツのトランスラピッドや日本でHSSTなどがあるが、超伝導磁石によるのは“超電導リニア”のみである。有人試験走行で200312月時速581qを記録し、現在もこれが世界記録だ[『超電導リニア』(鉄道総研+JR東海)]
 そのWikipedia記事によれば、移動する磁界(列車磁石磁界)中に置かれたコイル(地上設置)に誘導起電力が生じ、これは反発力をもつことを利用している。
 車両側に強力な電磁石、軌道側――軌道側コイルは軌道の両側の側壁に、上下に8の字に巻かれている――に短絡コイル(閉じた回路のことを云うのだろう)を設置する。

 開発当初は軌道底面に設置(車両用に誘導電流として回収するに利点)していたが、現在は側壁型で進められている。(小生にはその理由がよく分からない)


――
原理
 図はそのページからコピーしたものだ。

  

(サイト画像)

図の側壁の磁石は一見上下へ向けられているように見えるが、そうではなく、軌道から側壁を正面に見て図2右図のように8の字にコイルが巻かれているようだ。
 右側の側壁の断面図で言うと、車両のN極磁石が接近しつつあるとき、側壁コイルの下段に生じる反磁場は同極のNとして(側壁の裏面にはSが)生じ、この側壁のつくる反磁場電流は8の字で反転され上段では軌道側へ向けてS極(裏面にはN極)をつくると思われる。つまり実際には図2のようであろう。

             図2
 説明によれば、軌道下段のコイルからは絵で見て45度ほど斜めにN極の車体を持ち上げようとする向き、その起電電流を上段コイルに流してS極をつくり車両を斜め上に引き上げる、と言っている。これが浮上原理の説明である。
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 なるほど上下段とも車体を持ち上げる力として働くと納得できる。
 しかしよく考えると、列車の接近によって下段コイルが車両磁界に対するレンツ力(天邪鬼力)が発生するとするなら、上段コイルにも同じ磁極を発生させ上段コイルも斜め上から列車を“押し戻す”はずで、揚力とはならないことになる。のみならず、コイルは8の字に巻かれているため上下コイルに起こる誘導電流は互いに衝突する向きになる。
 なのになぜ現実には有効に働くのだろうか。

 それには有効に働かせる工夫があって、
 @下段のコイルは車両磁界の接近により 反電流を生じるが、このコイルは地面近くの“車両磁石に近い高さ”に設置されていて、おそらく“コイルの直径は大きく”作られているだろう。車両側からくる磁束をこのコイルにたくさん貫通させ、強い反磁場を(レンツの法則)つくらせようとしている。

 A上段コイルは斜め上方のやや遠い位置に置かれ、半径も小さく巻かれる。すると列車からの貫通磁束も少なく、下段コイルに比べて極端に小さい反電流しか生じないことになろう。その代わり下段からくる電流を蜜に巻くことで通常の電磁作用(ファラデーの法則)だけが際立つことになって、説明の引力を持たせることもできよう。それなら納得がゆきそうである。
 つまり、側壁コイルの下段のものはコイル芯を車両のN極に近く置かれ、直径も大きい。上段のものは遠くて小さい。誘導起電力は近くて大きい下段に浮力となる反磁場を強く生じ、これにより生じる電流を8の字で反転して上段に利用し、軌道側に向けてS極をつくる。この磁場は電流による素直な磁極なので車両のN極に引かれる。

 しかしこれには大きな欠陥がないだろうか。側壁コイルには経済的に超伝導線を使うことはできまい。
    実際上は常伝導コイルによるであろう。すると何かの理由により列車を停車させる必要が生じたとき、列車を浮かせるはずの反電流は常伝導線のためたちまち抵抗熱として失われ、車輪で立つしかなくなる。その後は浮力もないので車両のガスタービンによって始動・加速するほかない。もっとも、常温超伝導物質の開発が可能なら別だが。

この原理的なものはわれわれが第32,33号で触れた『止まらない独楽』のリニア版と見てよいだろう。
 止まらない独楽はふところに円ドーナツ型の磁石を隠し持っている。回っている独楽はその磁場を回転させている。

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 箱台に忍ばせてあるコイルは独楽の磁場から磁気誘導を受けて反磁場をつくるが、実は二重コイルになっていて内側コイルは外側コイルの起こす反磁場に対し更なる二次誘導を起こして、細く絞られたものを独楽に返す。
 それはまったく円ドーナツ磁石の回転に同期している。見ているあいだに独楽は自分で回転数を上げてゆき、勢いよく回り続ける。
  あの場合は、外側コイルが独楽の変動磁場を受信反転させ、内側コイルは更にこれを反転させる。すると内側コイルの返す磁場は独楽の変動磁場に同期することになって回転を盛り立てるという仕掛けである。

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 独楽を加速させるエネルギーは実は箱に隠されている電池から供給される。

 リニアカーの場合は車両の接近に対する反抗磁場によって車体を持ち上げ、その位相を二重コイルの代わりに8の字コイルによって180度反転させ、車両を引っ張る力に利用しているものと思われる。
 実のところは、列車を加速したり減速させたりするための力は、さほど大きいものでなくてもよい。そのためのエネルギーは別回路から貸借して与えられなければならない。
 上段コイルでも車両からの誘導起電力を生じないわけではないが、下段のものより遠いため格段に小さいのだろう。それよりか、下段コイルで生じた誘導電流が上段コイルを流れるとき、小さい径ながらも巻き数を増やしたコイルは細く鋭い磁界をつくり、列車の推進力として生かされるのだろう。

――列車の推進
 JRの説明によれば、車両の推進には、線型同期電動機(リニアシンクロナスモータ)方式が採用されている。
  磁気推進には車両位置を正確に検知する必要がある。車両側の電磁石(浮上用電磁石と共用)が界磁となり、軌道側に設置された推進コイルの磁極は地上変電所のインバータにより入力される電流の周波数によって切り替わり、車両側の推進力を与えている。このため車両側に推進に関わる制御装置などを持つ必要がなく、車両側への給電の必要もなくなる。また推進時との入力位相を180度反転させると制動力を働かせることができる…という。

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   ――列車走行のガイド
 JRリニアでは車両を10センチ浮上させることにしているという。左右の揺れについてはどのように制御されるのだろうか。
 JRの説明によれば軌道側の浮上コイルを利用して行う。車両中央が軌道の中央からずれたときに復元力が発生するようにすればよい。対向反発式でも側壁浮上方式でも、軌道の左右に設置された浮上コイルを接続して閉ループを構成している。
    
        図5       図5 修正

 原図によれば、片寄った列車は片側がN極の反発で押されると同時に、他の側ではS極から引き戻される(図5)としているが、これでは両方とも左側の壁に押し付けようとする力で、列車は片側にこすり付けられることになる。忙しい微妙なコントロールが必要だ。正しくは間隔の狭くなった側の反発力が増し、押し戻すことによる復元力(図5修正)なのではないか? 両方とも“押し”では?

――側壁式でよいのか(筆者の疑問)
 側壁型にすることのメリットについては、これによって車両側に推進にかかわる制御装置などを持つ必要がなく、このため車両側への給電の必要がないと言う。  弱点としては、低速運転中には十分な反力が得られないこと、また、浮上コイルの抵抗により発熱し、走行車両に対し磁気抗力を生じる、としている。なお、浮上までは車輪が支えるので底面を必要とするというが、筆者が思うに、底面が必要なのは(安全のために)どの方式でも同じだろう。
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 「側壁浮上にしたことで車両に供給する電力が不足する事態になった。以前の底面浮上コイルの場合は車両の二次コイルで誘導電流が使用できたが、効率の優れた(どこが優れている?)側壁方式に変えたことでその集電が困難になった。そのためのガスタービン発電機を搭載している」という。



――不遜ながら小生なら

 もっと深い事情があるのかもしれないが、浅薄な小生のレベルから察するに、もし小生が担当するとすれば、やっぱり永久磁石を軌道底面に並べ、車両側には超伝導誘導コイルによる天邪鬼力を用いたいところだ。
 なぜなら、気の遠くなりそうな長い距離の軌道の両サイドに冷却の必要な超伝導コイルを設置することは不可能であっても、車両の数箇所に冷却した超伝導コイルを設置することは容易であって費用も大してかかるまいから。
 そうすれば、軌道底面にはコイルではなく永久磁石を並べるだけ。どんなエネルギーロスもない。磁力の落ちた枕木磁石があればそれだけを取り替えれば済む。簡単なメンテナンスだ。
 しかもこの天邪鬼方式は車両が軌道から外れそうになると、戻す方向に天邪鬼力が働く(第101回)から、元々軌道修正ガイドは必要でない。自分で、走るべき道を走るのだ。もっとも、万一に備えることは必要で、電磁誘導に不具合を起こした場合にも安全を保つ方策はとられるべきだろう。

 実際、インターネット動画による別の実験映像によれば、磁石の並べられた軌道上を単体の機関車(超伝導コイルが巻かれていて?冷却による霧を出している)が、最初にちょっと指先で押してやるだけでいつまでも走り続けるのを見ることができる。模型が作れるのなら、実物だってきっと出来るに違いない。

  ――考え直されるべきでは?
 さて、インターネットにあるJRサイトの説明によれば、列車は地上のインバータによって操縦されるという。現方式では、車両接近による軌道側側壁コイルの誘導電流は(それが超伝導の線材でなければ)その抵抗熱として一部失われ、これがエネルギーロスとなることは前に述べた。
 また、列車運行が軌道側インバータに委ねられているとすれば、車両運転者はいかにコントロールするのであろうか。無線で行うのだろうか。もしこの列車のほかに東京〜大阪間で複数の列車が乗っている場合は、他の車両にも意図せぬコントロールが及ぶのではないか。
 わたしの論考では、軌道には電流を流す必要のない永久磁石を並べ、車両側に超伝導コイルと、加速・減速・充電とをつかさどる別回路電流とを持つ自主的なリニアカーとするのがよい、という結論になるのだが。それは超伝導コイルであるから、駅で停車中にも車体は浮かせたままにしておくことができる。ホーム柵も通常のもので足りる。

 この列車の運行に必要なエネルギーは、車中の照明とエアコン、電子機器のための弱電、それから走行中の風の抵抗、たったそれだけでよい。車輪は万一のために備えるだけで、通常は浮いており、わずかなエネルギーさえ消費しない。列車の加速・制動もまた、超伝導磁石への放電と充電で足りるようになるだろう。 しかし、いまさらながら磁石設置方式には致命的欠陥のあることに気づいた。つまり永久磁石の一部が重い磁性異物を吸着して障害物となることはないだろうか、そしてそんな時すぐ除去することは可能だろうか。……中略……

 無知のために勝手な口を利いたかもしれない。とにかく、超伝導リニアが日本の技術で開かれるのが楽しみだ。 頑張れ日本!
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