――実験が示した物理
先頭に付けられたマグネットがもたらす活力とは、何でありましょうか? このマグネットは落下球に対し何をしたのでしょうか?
<マグネットが働いたメカニズムとは?>
運動力学的な見方によりますと、振れ落ちてくる玉を磁力は引き寄せようと、玉を加速したにちがいありません。観ていますと、落ちてくる玉からこのマグネットが引き寄せられるようには見えません。マグネットは後続する4つの玉たちを引き付けていて、この玉たちと一体化しています。それ故、マグネットは、落ちてくる玉に対して自らの4グラムという質量ではなく、4つの玉たちとの団結力によって4+14×4=60グラムの質量を持つ物体であるかのように振る舞い、14グラムの落下球をほぼ4:1の比で加速するのです。
落下球がマグネットに当たる寸前の運動速度を想像しますに、まず間違いないのは、玉の位置エネルギーmghの変化である速度と、マグネットの引力により加速される未知の速度χとの、和になっておりましょう。衝突直前の玉のエネルギーは
に違いありません。この玉は初群の玉の先頭にくっついて止まり、
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代わりにこのエネルギーを最後尾の玉が帯びて飛び出し*1、後群の先頭にぶつかります。仮に玉が完全弾性体(反発係数e=1)であるとしますと、飛び出した玉に託されたエネルギーは
のはずで、空気の抵抗を無視できるとすれば、それが第2群の頭を撃ち、実験によりますと、同群最後尾の球がアンカー(最終ランナー)として同様の速さで飛び出すでしょう。このエネルギーもまた
のはずです。このエネルギーでこのアンカーがHまで昇ったとすれば、その位置エネルギーは(1/2) m(υ+χ)2 と等しいのがエネルギー保存の法則であります。すなわち
という方程式になります。これを解きますと打撃球(落下球)が最初にマグネットを叩く速さχが求まるはずです。そうしますと、
υ+χ=√(2gH) χ=√(2gH)−υ
υはマグネットを付けなかった通常実験から割り出されるところの
(計算すると4.5×104エルグ) のυのはずです。これからυ=√(2gh)、しかるにχは χ=√(2gH)−√(2gh)
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