光速の背景 次ページ

第2章 疑うべき学説
あるかたに書簡を献じたことがある。それが一般の人にあてたものだけに、易しく書けていて、改めて厳めしい書き方をするよりよほど分かりよいからそのまま述べたい。

《K様、しかし、私たちの『幻子論』では、光波を伝えるエーテルが独立に(物理とは無関係に)存在するのではなく、物質が物質の存在と同時につくっている「場」を、場の性質の相互作用という“振動として光は走る、と唱えるわけです。
 このことは、地球がどんな高速度をもつ可能性があるにもかかわらず、いかなる方向にも、とくべつ色づいて見える(波長が変化する)こともない平穏さを持っていることと矛盾なく説明することが可能なわけです。ビッグバン説の元となる赤方偏移をドプラー効果と見違える矛盾も、この光の性質できれいに説明可能なわけでした。
 ビッグバン説では、空間は等質膨張(あらゆる空間が同じ率で膨張)している、というものですが、その考えは現代の青年が頭でこしらえる青少年向け非科学フィクションに似た程度の科学性しかもたないことを、次のようなことからも言えそうです。
 私、暇になると色々頭に浮かんできて困るのですが、いま、地上に高さHの電柱が立っていて、電柱の頂上から上空χにあるPなる地点を想定します。それを空間の一点とします。この空間点のχはビッグバン理論によりますと、他のいたるところと同様にkなる率で膨張しているわけです。つまり次のある瞬間にはχよりkχだけ高いところにあるわけです。ところが空間は全てがつながっていて、当然ながら、その電柱が立っている足元の地面からPまでの距離H+χもまた、同じ率の等質膨張でなければなりません。地面からPまでの空間も、次のその瞬間にはH+χにkを乗じただけの空間の膨張がなければならないから、その点は電柱からの膨張量とはkHばかりズレて存在することになるのです。
 つまり、空間の等質膨張だけでは矛盾のない膨張は不可能で、電柱自体も膨張するとしなければ理屈に合いません。電柱という物体をつくる分子・原子のサイズも、またそれらの相互間距離も、膨張していなければならず、何もかも、つまり膨張を測定する定規そのものも膨張していて、膨張を確認することができないわけです。するとドプラー効果も起こりえないはずです。ドプラー効果という現象は、物指(ものさし)や時間といった常に不変な定規を基に成り立っているものです。光の振動数だけが不変で、物指も含めてあらゆるものが、まるで設計図面のように縮尺どおりに縮小あるいは拡大されている、という考えは、漫画の世界でもなければ、ナンセンスな空想論でありましょう。明晰なはずの科学者たちのこの思考レベルは、アインシュタインの光速不変を受け入れる知性と類似のものであることを示しています。
 万人一致した科学者の、この単純さは、私の頭と足が入れ替わるほど驚愕すべきことに、私には思われるのですが、今の科学界の平穏さはどうしたことでしょうね。  2008年3月11日》 

《K様、先に3月11日付、さし上げたお手紙で、「ビッグバン説の基となる等質膨張とは、物体である定規もまた膨張していて、膨張を確認することができない。するとドプラー効果も起こりえないはず」と断じました。今日はそれをもっと明確にしておきましょう。
 等質膨張とは、空間も定規も、何もかもが膨張していることを言い、そのことは電柱の話で確認しました。そうしますと、この膨張という物質間距離の“変化は相互間の相対的運動ではないことを示しています。相対運動のない物同士が伝えあうはドプラー効果を生じないことをわ

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