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第2章 疑うべき学説
ル理論と光速を含むように拡張されたのである。これで、たとえどういう速さで運動していても、すべての観測者が測定する光速の値は同じであるはずだといえることになる」と言う。
 これで完全に彼はすり替えた。ニュートンの理論――ここではニュートンの、3つの運動の法則を指している――は等速運動をしている観測者にとって同じ法則が適用できる(観測と法則とが一致している)、であって、たしかに真実であると筆者も思う。筆者が認めるのは“法則”が同じ法則であるという点で、である。“観測値も”ではない。ある一つの物体の運動は、それぞれちがった等速度運動をしている複数の観測者(これらは慣性系と呼ばれている)にとって、ニュートンの運動の法則は各々の観測のとおりに適用されるが、それぞれに見えるその物体の運動速度や運動量の“値”はそれぞれ異なる。慣性系においては“運動の法則”という自然に適用される約束は同じであるが、それぞれに見える光の速さといった物理量はそれぞれ異なる。もっと言えば、慣性系でない(加速度運動をしている)観測者にとっても、ニュートンの法則のような大自然の適用している“法則”はみな同じなのだ。それが各々の非慣性系にある観測者にはそれぞれの“値”をとってみえるにすぎない。自分の運動を差引いて補正すれば、すべての観測者にとってその運動体は同一の運動をしていることが確認できるはずである。
 つまりある運動体の運動について、各慣性系からそれを見れば、それぞれ違ってみえる。しかし、適用される運動法則(自然の法則)は同じである。相対論の言う「光の現象について自然の法則はただ1つあって、光の“値”までが各慣性系について同じである」、に対しニュートン理論に言う「運動法則は各慣性系で同じである」ははっきりと異なる。相対論のすり替えるところは、すべての慣性系について同じ物理法則が適用され、しかるに光速の()()また同じである、とした点にある。

 相対論の詳細
 特殊相対論とはどんな理論であるかを見よう。そもそも相対論がどこから起こったかといえば、光が光を伝える媒質(エーテルと呼ばれた)に対していかなる速度を持つかを調べるために、アメリカのマイケルソンらが行った「マイケルソン‐モーレィ実験」が元になっている。
 この実験で地球の真の速度が分かるはずだった。例えば地球は太陽を中心にして公転しているから、光をその公転方向へ向けた場合と、公転半径にあたる太陽方向へ向けた場合とは、光速に差が出るに違いない。船が川上へ進むときのように、地球の公転方向へ出た光はエーテルの流れに逆らう向きにあるから、静止しているときよりも遅くなるはずだったのである。マイケルソン‐モーレィの実験は1887年にアルバート・マイケルソン(A. A. Michelson)とエドワード・モーレィ(E.W. Morley)によって行われた。

 L型の定規の片方を公転方向、他方を太陽側へ向けたとしよう。マイケルソンのその装置は定規の交点の部分に光源と、光源からすぐのところに45度傾斜して半透性のハーフミラー(スプリッターと呼ばれる)が置かれる。光源から出た光の半分はスプリッターを通り抜け、半分はその45度傾けられた鏡面で反射され90度向きを変え、そ
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