光速の背景   53
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第2章 疑うべき学説
ギー加速器研究機構(KEK)がある。そのシンクロトロンのうち、直径108mのものは周長340mほどということになる。そこでは、この真空のチューブの外から磁場をかけて内部の粒子を加速させ、粒子同士ぶつけてみたりしている。あるいは粒子を外へ放り出して、岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデの地下タンクまで地中を飛ばしたりするともいう。
 だがわたしには、なにかの証拠をつかむための実験室などない、ただただ相対論と異なる実証はないかと思索するばかりであった。そんなある朝、うとうとしながらも、船舶の前マストから後マストまでの距離、あるいは、船舶と船舶の距離、そういうものが光速でも縮まないことを示す証拠はどこかにないものだろうかと考えていた。ちょうどそのとき、あのつくばの陽子シンクロトロンの設備を見たことがあったのを思い出した。シンクロトロンを周回する粒子は光速近く(99.7%)まで加速される。すると粒子は自分の後ろを追いかけることになる。もうひとつの自分との距離はシンクロトロンの周長だ。この粒子は施設に対してほぼ光速で運動している。施設の研究員に対して光速である。
 そうすると、どんなことになる!かくてひらめいたことは、粒子とそれを追う粒子自身との距離も、相対論によれば縮まなくてはならない。その周長が縮んでも、粒子はシンクロトロンのチューブの中に在り続けられるだろうか!運動周長ゼロであるはずの粒子の軌道をチューブの中にもちながら、現に研究員が目の前に見ている施設はさっきから同じ340mのままにしか見えない。相対論の誤りを証明する実験はずっと前から存在していたのだ。なんとこんなに身近で、実際に目にすることのできる実験施設が、光速運動する物体の距離はすこしも収縮しないことを観測させ、実証し続けていたのである。KEKで、今は誰にでも、走る物体が一ミリだって縮まないことを見せてくれる! カール・セーガンが要求した「実証」を、はからずも世界に示すことができたわけだ。

最新の事実からも
 2011923日、実際の実験データが明らかにされるという、衝撃的なニュースが走った。「光より速い素粒子観測」「ニュートリノ 相対性理論と矛盾」という大見出しで、これは2011924日の読売新聞の記事である。
 《――名古屋大など国際研究グループは23日、物質を構成する素粒子の一種であるニュートリノが、光の速度より速く飛んでいるとする観測結果を発表した。現代物理学の基礎であるアインシュタインの特殊相対論では、宇宙で最も速いのは光だとしている。今回の結果は同理論と矛盾しており、観測結果が事実なら物理学を根底から揺るがす可能性がある。
――この観測結果が得られたのは、スイスジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)の「OPERA実験」。
 ミュー型ニュートリノを加速器で打ち出し、約730㎞離れたイタリアのグランサッソ地下研究所へ地中を飛ばした。光はこの距離を0.0024秒で飛ぶが、今回の観測によって、ニュートリノは光より1億分の6秒早く到着していることが分かった。光速より0.0025%だけ速く飛んだことを示している。
 今回は原子時計を備えた全地球測位システム(GPS)と光学測量を組み合わせ、3年間かけて約1万5000個分の飛行速度を精緻に測定した。その結果誤差を考慮しても、光速を超えていることが判明した。》
――「物理の根底を覆す可能性」という見出しで、《アインシュタインが1905年発表した特殊相対論の柱の一つが「質量を持つ物は光の速さを超えられない」というものだが、今回の結果はこの理論を覆す可能性を秘めて
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