光速の背景  67
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第3章 発見は誰にもできる
馬の首から先に吊るされたニンジンのように、そこへ近づこうとすればそれだけ先へ、まだ知らぬことが現れてくるものであろう。だが、現在のわたしたちにとって、現在最も新しく発見されることを現在の喜びとして、幸福感に満たされるものであろう。それは知恵ある者――自然の絶妙な仕組みに驚き感動する者――に神が与えるご褒美である。


発見への賞与

 人から人へ贈られるノーベル賞について、メモしておこうとおもう。ノーベル賞が直接に発見を促すことは決してない。しかし、学問と平和に貢献した人に贈られる、最も名誉ある賞であることにまちがいはない。史実、アルフレッド・ノーベルの伝記物語(大野進著『世界の伝記34 ノーベル』)から要約して、しかし、なるべく原文を踏襲させていただきつつ、いかにノーベル賞が誕生したかを知りたいと思う。

ダイナマイト王ノーベルの物語

アルフレッド・ノーベル (Alfred Bernhard Nobel 183396スウェーデン)の伝記物語から

 パナマでは、クレーンで陸揚げ作業中の油状爆薬が、貨物船ユーロピアン号の甲板に落下し、船は瞬時に爆沈した。ニュースを聞いて、アルフレッドはめまいがした。数週間後には、ウェールス・ファーゴ駅馬車会社サン・フランシスコ支店は、店の前に、駅馬車が止まったとたん、跡形もなくなった。馬車は油状爆薬を積んでいた。このほか、小さな事故は枚挙にいとまがなかった。
 「そのほとんどが、取り扱い注意を読もうともしない、慣れがもたらしたものです」、アルフレッドは記者たちに説明した。銀行は運営資金を融資してくれなくなり、注文のキャンセルは殺到した。そこへ、とどめのような大爆発を起こした、クリュンメル工場が! 彼はニューヨーク滞在中、電報を受け取った。
 「工場再建の見通したたず。至急帰られたし。」
 アメリカで特許権を売って、船に乗り込んだ。助け、励ましてくれる人は、どこにもいなかった。(いとしいアルフレッド!) とつぜん彼は、なつかしく、優しい声を聞いたような気がした。
 (わたしのだいじな人、どうしてあなたは、油状爆薬を、液体のままに放っておくのかしら!
 (そうなんだ、ジャンヌ、そうだとも!ぼくは、油状爆薬の起爆に成功したあの日から、その欠点にはっきり気づいていたんだよ。
 アルフレッドは研究方針やアイデアの断片を猛然と整理しにかかった。「第3紀の堆積岩中に、層となっているのです。多孔性ですから、自分の重さの3倍のニトログリセリンを吸い込むのです。しかも天然産ですからね!」
 さまざまの実験ののち、決定的使用法をみつけた。焼いて、ふるいにかけた珪藻土1に対して、ニトログリセリンを3の割でしみ込ませる。
 「よろしいですか。この新しい爆薬は、ショックや温度変化に強く、輸送が容易で、どのような形にも変えられます。岩にあけた穴に、このまま装てんして、起爆できるのです。」
 「その商品名は、なんとつけるね、アルフレッド…。」
 「ギリシャ語のデュナミスから、デュナミートとしたいと思いますが…。」
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