光速の背景 次ページ
第4章 未来への道
――さきほどの“規約”をアインシュタインに具体例をとってみれば、“光の速さは不変”と規定し、それゆえ、“時刻は場所によって異なる”と規定しなければならなくなった。そして近代物理学は平気でそのような規約に従って「時空論」というものを進める。これがどのような物理学をつくり出そうものか、想像してみるがよい。


――学問を遅らせるのは、武力による抑圧でもなく、また、財政不足でも、知恵の足りなさでも、時間が足りないせいでもない。それを遅らせるものは、人間の本性(ほんせい)である。



――目前の不合理を(ぬぐ)ってみようともしないで、真理を見通せるはずがない


――地動説が天動説よりも難しくなったわけではない。むしろ簡潔でわかりよくなった。ニュートンの万有引力の法則は、1900年以上昔のアルキメデスの原理に比べても、同じほどに簡潔である。困難なのは《天界が動くことから地球が動く》ことに考えを変えること、《光速は不変なのではなく、重力場に対して動くものには光速に相対速度が生じる》ことに考えを変えること、にある。《考えを変えること自体》を、権威者も社会も容易に許そうとしないのである。


――われわれはどうかすると、われわれの物理学の進歩によれば、自然法則をすら創り出さんばかりの錯覚をもっている。だが、省みるべきは、いかに学問が進もうとも、学問が大自然の法則をも創り得るものではない。


――だが、現在のわたしたちにとって、現在最も新しく発見されることを現在の喜びとして、幸福感に満たされるものであろう。それは知恵ある者……自然の絶妙な仕組みに驚き感動する者……に神が与えるご褒美である。 


――ひらめきはどこからともなく天才の上に舞い降りてくるものではなく、たえず考えつづける者のうえに訪れるものにちがいない。ひらめきはアンテナを張っている誰にでも降りてくる。疑惑を払いのけるだけの真実なものが、天才の上に舞い降りたものであるとされるだろう。ただ、これだけは言える。天才は誰でももち得る、それは純真であることだ。


――人間、まあたいがいの大事なものは間違って身につけてます。


――私という組織体も、いつのまにか結び、いつのまにか解ける幻子のようなもの。


  ――永遠とは瞬間の伝承である。
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