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第4章 未来への道
りほほえんでいます。
 「わたしは三時間したら死ぬでしょう」と言う、噂とはまるでちがう老人で、司祭が話し掛けます。牧童には「おまえはもうお休み」と言ってから司祭に答える話の部分は次のようです。(司教は「あなたのために喜びます。あなたはとにかく国王の死刑には賛成しなかったのですから」と叱責するように呼びかけたところです)


レ・ミゼラブル(一部略) (井上究一郎 訳)45、46ページ

――「わたしのためにそうよろこんでくださるな。あなた、わたしは暴君の終末に賛成したのです」
 それはきびしい調子に太刀打ちするおごそかな調子だった。
 ――「なんとおっしゃる?」と司祭がききかえした。
 ――「つまり人間はひとりの暴君をもっているということです。すなわち無知です。わたしはそうした暴君の終末に賛成したのです。その暴君は王位を生みました。王位は虚偽のなかから得られた権力です、それにひきかえ、学問は真実のなかから得られた権力です。人間は学問によってしか支配されるべきではありません」
 ――「それと良心です」と司祭は付け加えた。
 ――「その二つはおなじものです。良心とはわれわれが自己のなかに生まれながらにもっている学問の量なのです」
  (中略)
 議員はつづけた、
 ――「ルイ十六世はというと、わたしはその死刑に反対だと言いました。(中略)わたしは暴君の終末に賛成したのです。(中略)わたしは偏見と誤謬との失墜をたすけました。誤謬と偏見との崩壊は光明をつくります。われわれは古い世界をたおした。悲惨の容器であった古い世界は、人類の上にくつがえって、歓喜の壷と化したのです」
 ――「混合した歓喜の」と司祭が言った。
 ――「混乱した歓喜とおっしゃることもできるでしょう、そしてこんにち、1814年といわれるある運命的な過去の復帰(王政復古)ののちは、それは消えうせた歓喜となりました。(中略)われわれは事実的には旧制度を打倒しました、だが思想的には完全にそれを根絶することはできなかったのです。悪弊を破る、それだけでは十分ではない。風習をかえなくてはならないのです。風車はなくなったが、風は依然としてあるのです」
 ――「あなたがたは破壊された。破壊は有益なこともあります。だが、わたしはいきどおりのからんだ破壊は信用しません」
 ――「正義はいきどおるのです、司教殿、正しいいきどおりは進歩の一要素です。(以下略)」(以上『レ・ミゼラブル』)

 私たちがこれから編集作業に入ろうとする本になんとなくダブるような共感を覚えました。学問は良心だと言っています。思慮を尽くしておれば科学も文学も同じところへ辿り着くのでしょうね。誤謬と偏見との失墜をたすけた革命家は世間の非難を浴びたわけです。たぶん現実の資料をもとに書かれたと思います。相対論とビッグバンは世間に広く支持されています。私たちはおそらく孤独な戦いをしなければなりません。でも武力や暴力を使わない学問上の戦いです。これを行わなければ科学の黎明は訪れないと私は考えています。 2006年10月28日》

  だんだん出来上がってくるのが楽しみであった。

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