光速の背景  84 次ページ

第4章 未来への道
驚異のからくりが存在して、われわれはそのことに気付いていないのではないだろうか。われわれは知っているつもりでいた。外力をうけない――そもそも外力をうけないということがあり得るのか?――ものは等速で直線運動をつづける、と。それで、直線をどのように認識しているだろうか? いまここで問うのは、一般相対性理論など仮想の理論が言う時空間の歪み、というようなわけの分からない空論は期待しない。
 ここに一個の磁石があるとする。われわれの観察によれば、この磁石は特別な作用をもつなにかを周囲にまとっている。その“(まとい)”と磁石とは別々の動きができるだろうか。その磁石を遠くへ放り投げてみよ。その“まとい”たる磁性は元にとどまるか? そうではなく、共に飛び去るだろう。
 その飛び去る先に閉じた誘導コイルが置かれていれば、そのコイルは、まだ磁石がぶつかりもしないうちに微動することが知られている。この微動を与えるだけの影響を磁石自身も受けるだろう。また、磁石が投げられる前に存在していた場所の近くに、別のコイルがあったとしよう。そのコイルもまた、磁石が遠くへ投げられるとともに、なんらかの影響を受ける。この二つのあいだにも直接的な接触はない。
 すると、二つの物体の運動によって起こることは、それらの互いの、“位置関係の変化”だけではないことを知る。コイルと磁石という二つの物体が互いに動いても、その相対的な運動はどちらが動いたとしても同じだとすることが妥当でないことは次のように示されよう。
 先ほど見たように、磁石が飛ばされてコイルに近づく位置関係を生じさせてもコイルは微動し、同じほどの影響を磁石に与える。逆に、コイルのほうを動かして磁石に接近させれば、磁石もまた微動するだろう。これらは、“運動”だけが起こさせる作用ではない。磁石のまとって(ヽヽヽヽ)いる磁界という衣服の濃度は、磁石がコイルに近づくほど濃くなる。それが変化したときコイルに電流を生じさせるのだということを、先代の知恵のおかげで、われわれはもう知っている。このコイルに流れる電流は磁界を生じさせる。コイルはこうしてコイル自体に磁界を有するようになり、互いの間に“力”を生じさせる。これは単に互いの運動というより互いの“()と呼ばれる衣服の濃淡や()()変化(ヽヽ)によって生じるものである。
 すなわち、物理的現象は必ずしも単なる幾何学的な位置関係だけで解明されないことが知られる。
 接近してくる磁石に対してコイルがどの向きにあるか、によって、コイルに生じる電流の向きや強弱もちがう。コイルは近づきつつある磁石に対し、近づけまいとする向きに電流が生じるから、この電流の磁界のために反力を受け、くるりと回転してしまうだろう。この回転は、コイル本体の質量による慣性力のため振動をひき起こすにちがいない。この振動はまた、磁界を激しく変化させ、飛来する磁石にも影響する。磁石はまた、その力の影響をうけ、等速度でなく運動の緩急すなわち微振動を起こすだろう。これらのことは極微の世界でも生じるだろう。
 このように“場”の相互作用によって生じるものが物質の物理現象であり、目に見える“運動”とは、その結果生じるものであるとみるべきではないか。したがって、二つの物体同士の運動が、どちらから見ても同じ、などとは大雑把に過ぎよう。
 また、さっきの、くるりと回転することから生じる振動は、その磁界という“まとい”とともに起こっている。その振動が空間に対して磁界と電界の相互作用を生じさせるとすれば、それらはコイルの“まとい”のなかに生じ、コイル本体と別々の行動はしないだろう。もしもその相互作用の“伝わり速さ”が決まっているとすれば、それはコイルにまとわる磁界に
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