光速の背景  129
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第5章 未来へなにを遺すのか
 月は地球の周りを回りつづけ、地球は太陽の周りを回りつづける。同じようなことが超伝導の世界で起こっているのであろう。太陽の近傍で太陽の重力場によって加速されるであろうが、速度を得た天体は必ず太陽から遠ざかる。運動エネルギーと宇宙空間における場に対する位置エネルギーとの和は減少することはない。これは超伝導体を流れる永久電流と同様であろう。しかるに、運動エネルギー自体としては宇宙空間における場のエネルギーを貸借しながら航行するのである。
 いましばらく場の想像の世界を楽しんでみたい。重力、磁力、静電気力はそれぞれまったく独自のおもしろい作用法則をもっている。この3種はあらゆる加速度場の代表であるようだ。これらの力を利用して宇宙旅行をすることは可能であろうか?
 重力は引力という一方的のみ存在し、複数の物体たちはそれぞれより近い距離にある同士がより大きな力で引き合う性質をもつ。それは逆二次関数的である。重力場のなかにあって、質量は重力場の大きいほうへ動かす加速度を得る。
 磁力は磁界のなかで、磁荷は常にNS両極がペアで存在するために、回転を起こさせるモーメントは存在しうるが、必ず引力と斥力はうち消し合って、磁石が一様な磁界のなかで加速度を得て動力とすることは困難である。磁石同士が引きあうのは、重力場と同様、相互に磁場勾配をもつ場合である。しかしその場合、磁場に関しては方向による異方性があるために、その加速度は重力のような逆2乗の法則は適用されない。ある方向には緩やかに、別な方向には急激に、その加速度は変化する。均質場では一対の磁荷の重心を移動させる加速度を得ない。その代わり互いが非常に近い場合、きわめて強力な相互作用を現わす。
 静電気力は、電荷が陰・陽単独に存在しえるから、電界のなかで陽電子も電子もそれぞれ互いに反対向きの動力を得ることができる。
 すなわち、重力場では片方の向きの動力だけを得、磁界では磁荷は推進力を得ず、電界では2種ある電荷は各々二方へ動力を得る。電場は二方へ、重力場は片方への動力をもち、磁場は移動させる動力をもたない。
 重力はきわめて弱い力で、それに比べ電気力は近接力において格段に強力であり、磁力はそれにも増して強力なようである。ところで宇宙空間では磁場と重力場に充ちているが、電場はきわめて薄い。もともと電荷は正負中和しやすい。もしも宇宙旅行のための動力として利用しようと思えば、人類には今のところ重力場と磁場しかない。しかし、重力は質量に作用し、質量をコントロールできない我々は重力場を自在に利用して思うままの推進力を得ることはできない。我々は電流をコントロールして磁力をコントロールできるが、先に述べたように2極ペアでしか生み出せないため一様磁場で推力を得ることは難しい。
 それで、今のところ、宇宙旅行のための移動手段は運動エネルギーを発生させる物質――燃料――を持参することによるほかない。それは旅の途中で捨てることになる。しかし大自然の法則に「貸借の原則」があるようで、未来の可能性に懸けたい。いずれはそこにあるものを(太陽電池のように)拝借して進み、返済して停止することが可能になろう。大宇宙空間で、ただ位置を変えるだけのために、ほとんどエネルギーを補充する必要はないはずだからである。さてその、可能性の始まりは“場”の物理学に負うであろうとわたしは考えている。 ところで、我々がいかに何かを浪費しようとも、悉くを――いや、いかにわずかな量にしても――無くしてしまうことはない。人間活動が地球の環境を破壊するというが、今の環境の物質構成比率を変えることにすぎない。目前の便利を追求するために、かけがえのない我々の環境を破壊し
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