ビッグバンの疑義 熊野宗治
―迷える物理学―    不定期便第69号 から

一途な憶測の暴走      013.2.22

赤方偏移は星が後退しつつあるために起こるのだろうか?

 前号のことから、つまりわれわれの平和な空間は、現に体感し観測することのできるありふれた運動による以外の相対速度は持っていない。したがって静止し合ったもの同士でドプラー効果の生じないことは、もちろん実体験をしてたしかにわれわれはそれを知っている。しかし音について言えば、“風が吹いて”いれば別である。風上からの音は速く、風下からの音は遅く届く。音の媒質は空気すなわち風そのものだからである。

一方、宇宙では空気という媒質の代わりに、光を伝える媒質があって、その媒質が動いていないかぎり、相対速度を持たない物どうしはドプラー効果を生じない。

1915年から42年にかけて、アメリカの天文学者ヴェスト・スライファー(Vesto Melvin Slipher 18751969)の天体観測によって赤方偏移が発見された。もしも赤方偏移がドプラー効果によって生じているとすれば、星は猛烈な速さで後退しているはず、と彼は考えた。

 

1929年、アメリカの天文学者ハッブル (Edwin Hubble 18891953)はすべての星が地球から遠ざかりつつあり、遠い星ほど速い(赤い)ということから、宇宙は膨張しているとする「ハッブル膨張則」を発表する。

(後退速度V)=H ×(距離R)

という式で示された。Hは ハッブル定数である。

 

ビッグバン宇宙誕生説は1946、ロシアの科学者ジョージ・ガモフ(George Gamow 19041968)が言い出した説で、宇宙がいまも膨張しているとすれば昔ほど収縮してゆくことになり、宇宙がいまの10のマイナス28乗も小さい状態までさかのぼり、そのころビッグバン(大爆発)をおこして誕生したとする理論である。

それによれば、最初に1センチほどの玉(宇宙の卵)があった。それは高温高密度であり、熱核融合反応が起こる。最初に中性子だけがあって、中性子が崩壊して陽子と電子ができ、それら中性子、陽子、電子が結びついて重水素ができる。さらに爆発後三分、絶対温度10億Kに達するころ核融合によりヘリウム原子核ができる。これを説明するαβγ理論によればヘリウムまでで、それより重い元素はできないことになる。理論によれば原子核反応が起こって熱平衡に達すると、結合エネルギーの大きい鉄のような元素ができるはずだが実際の宇宙の元素組成では水素が主になっている。このことを説明するには温度が急激に下がるあいだに核反応が起これば熱平衡に達する前に核反応の進まない軽原素が多くできるからであるとした。高温状態は短時間であったことが必要で、ビッグバンは数分間の出来事であるというシナリオができた。

熱い宇宙は膨張して冷え、バラバラであった陽子と電子は4000Kあたりで結びついて水素原子となり、3000Kになるとヘリウム原子核は電子を捉えヘリウム原子となる。爆発後40万年ころ、このようにして宇宙は晴れ上がる。これが宇宙ビッグバン誕生説の大要である。