ホーキングのE=mc2について
一般に理解されているE=mc2は、その真否はともかくとして、mなる質量がエネルギーに変換すればEなるエネルギーとなり、それはmc2なる量となるというものであろう。そうすると、次のような、『ホーキング宇宙を語る』でホーキングが説明することに接した人は一種おどろきをもって読まれるにちがいない。
「E=mc2に要約される質量とエネルギーの等価性」と説明する。エネルギーと質量の等価性ゆえに、物体が運動することによって得るエネルギーは質量を増すことになる、とする。それゆえ、しだいに加速されにくくなって、光速近くで質量が無限に大きくなるため光速を超えられないという解釈になる。
すると彼の言う等価性とは、結果えられる運動エネルギーと同等に質量も増加するということになる。つまり運動によってエネルギーと質量とが増加し、合計二倍の増加ということになる。この考えには驚きを禁じえない。こんな不当なことはないであろうことを、論証しないではいられない。ぼくらは次のようにして論破することができよう。
いま空間に質量2m0である物体が静止しているとしよう。これが内部エネルギーによって2つに分裂したと仮定する。元々同じ質量m0の2つが初期には共に静止していたとしてもよい。それらが自分たちの持つエネルギーだけで互いに真反対の向きに運動を始め、質量はそれぞれm1,m2、速度は互いに逆向きであるがυ1 ,υ2だったとしよう。
そうすると運動量保存の法則からm1υ1とマイナスm2υ2の合計ははじめの静止運動量0に等しくなければならない。
m1υ1+(−m2υ2)=0 ……………@
である。これからm1υ2=m2υ2ということになる。そのときの全エネルギーは、ホーキングの言うとおりだとすると、質量m1,m2および各物体が得た運動エネルギー(1/2)m1υ12および(1/2)m2υ22、これらの合計ということになる。式で表わすと、
m1+m2+(1/2)m1υ12+(1/2)m2υ22
=2m0 …………………A
ということになる。右辺は分裂前の物体の静止質量として入れた。初期の物体は運動エネルギーをもたないから2m0だけである。こう置けば、したがってこの式はエネルギー保存の法則を満たしている。
ところでE=mc2が正しいとすれば、静止質量m0の、ホーキング称する等価エネルギーE0は
E0=2m0c2 ……………B
ということになる。そこでA式でυ1 ,υ2が静止点O(2つのm0のあった中間点をイメージする)に対し、互いに逆向きで同じ速さであろうことからすれば@式から、
m1υ1=m2υ2=m2υ1
これからm1=m2となる。するとA式は
2m1+m1υ12=2m0
となってこれは
(2+υ12)m1=2m0 ……………C
このとき相対論の言うところによれば
m1=m0/β (β=
|
|
) ………D
|
と、静止質量m0からm1へ増加している。これをC式に適用すると
(2+υ12)m0/β=2m0 =E0/c2
ということになる。こうしてυ1が光速になったときm0がどのような値になるだろうかと考えると、υ1=cと置いてβ=0となり、両端の等式から
m0=0
と得られてしまう! 最初にm0なる質量を持つ物体が2つあったと前提したのに対し、それはなかった、と設問者を愚弄するものになる。ぼくらの知的プライドを保とうとするなら、ホーキングの乱暴を諌めなくてはならない。
もちろん、ここでD式というアインシュタインの相対論(質量増加)を入れている。相対論は正しくないと主張する者が、相対論の式を用いて論証したものは正しいと言えるか、と反論するかもしれない。すこしもおかしいことはない、なぜなら、ホーキングのいまの説も相対論に基づいている。ホーキングやアインシュタインの世界で矛盾を反証すれば、ホーキングの弁が浮言(ふげん)であったという論証としては有効だろう。
|