特殊相対論 原文

A
右についての
疑義



                      
§2.長さと時間の相対性

これから述べる意見は、相対性原理と光速度不変の原理にもとづいている。これら二つの原理を次のように定義しよう。
 1.物理系の状態の変化を記述する法則は、その状態の変化を、お互いに等速運動をしている二つの座標系のどちらについて記述してもその形は同じである。
 2.光は座標の“定常”系をいつも一定の速さで伝わる。この光が定常の物体または運動物体から発しても同じである。したがって
      ………………21
ここで時間の間隔とは§1の定義に従って決めたものとする。
 いま、ここに定数の剛体の棒があるとする。そしてこの定常的な測定棒によって、その長さιを測ったとする。さらに、この棒の軸は一つの定常系のχ軸に沿って平行移動させたものとしよう。さて、この動いている棒の長さを調べてみよう。その長さは次の二つの手順によって確かめるべきものとする。:

(a)観測者と測定用の棒、および測定の対象となる棒とは一緒に運動し、観測者は測定用の棒を、測定されるべき棒に直接当てることによって後者の長さを測定する。この三者の関係はお互いが静止しているときと同じである。

(b)定常系にとり付けた定常時計を§1の考えに従って同調させておく。観測者はある一定の時間に、測定されるべき棒の両端が定常系のどの点に存在しているかをこの時計によって確かめる。いま使用した測定棒(この場合、静止している)によって測った、これら2点間の距離は棒の長さと認定することのできる長さである。相対性原理によれば、(a)の操作によって決まる長さ(これを運動系における棒の長さとよぶ)は定常棒の長さιに等しいはずである。

(b)の操作によって決まる長さは、定常系における運動している棒の長さとよぶべき長さである。このことから、この長さを上記の二つの原理にもとづいて決めてみよう。その結果はιとは違ったものになるであろう。
 従来の運動学によると、これら二つの操作によって測った長さは正確に等しいということを、よく考えないで仮定している。換言すれば、運動している棒はという時間には幾何学的には一定の位置に静止している同じ物体によって完全に表わされていると仮定している。
 さらに、おのおのの時計の場所に運動している観測者がいて、彼らは§1に定めた規準によって二つの時計を同調したものとする。
 光がA点から時刻()に出発し、()にB点で反射して、時刻`()に再びAにもどったとしよう。光速度不変の原理を考察すると
    ………………22
 および
    ………………23
 となる。ここで(AB)は定常系で測った運動している棒の長さである。したがって、運動している棒とともに運動する観測者は二つの時計は同調していなかったというであろうが、定常系の観測者は二つの時計は同調していたと主張するであろう。
 このようにして、同時性という概念には、絶対的な意味をもたすことはできないことがわかるであろう。二つの事件が一つの座標系から見て同時刻に起こったように見えても、その座標に対して運動している別の座標から見ると、もはや同時刻の事件と見ることはできなくなるのである。

 

続き      本文に対する批評 

  AIU Planners Co., Ltd. 熊野宗治