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「照り」の解釈、間違いなら正すべき
照りについて
      

 「照り」は筆者の記憶によれば、屋根の軒先の、端部における反り上がりを云う。
 建築用語辞典により「照り」を牽くと、Concave upwardつまり、上に凹の曲面または曲線と記されている。「反り」に同じと書いてあるのだ。ならば、わざわざ「照り」などといわず、「反り」でいいではないか。

 そこで、一体、「照り」に
「反り」という意味があるのか調べてみた。
 中国語大辞典※によれば、@照らすA映すB写真を撮るC肖像・写真D世話をする・
気を配るH向かって・めかけてIつき合わせるJ見る、などという意味がある。
 日本の古語大辞典※第4巻によれば、@光を放つことA晴天の太陽が光を放つことB物の光沢・つや・多くあかあかとした光沢にいう。また、「照りうそ」という鳥名では、うそ(鳥の名)の雄で紅色を呈すとある。「照葉(てりは)」には光沢があって美しく輝く葉、とある。 いずれも反りという意味はない。

 では、どこかの方言で反りという意味を表すところはないか?調べた限りそのような方言もない。熟れている(福岡),晴れる(佐渡)というのがあったくらいだ。だいいち、照りの形状自体は、すでに大陸から伝わったことであるらしい。

  
  

※中国語大辞典
大東文化大学中国語大辞典編纂室編:角川書店
※古語大辞典
:角川書店
 

 表意語ではないか
 直線をなす軒先ラインに対し、両端で少し上方へ反ったラインは柔らかく、安定した面持ちを得る。すなわち、見え方がよい。さまになる。見た目がよい。
 
この方が見栄えがするのである。錯覚を修正するという気配りがあるわけだ。形状を表わすというよりは心理や状況を表わす表意語と解するのが適当ではないだろうか。

 見栄え、といえば、歌舞伎に見得(みえ)という所作があったのを思いつかれたかもしれない。そう。これでどうだ!という口上とともに身振りを決めると、大向こうから「おとわ屋!」などと掛け声がとぶ。
 鳥居の例を見よう。鳥居の横材では雨処理のため、断面は屋根型をしており、正面から全体をみると、両側柱から先で上方へ反らせている。この反り上げの始まるところを「照元」とというが、この反り曲線は建築の屋根でいうと軒先ラインにあたる。この、鳥居の照りは、やはり、鳥居らしさの
「さま」をつくるためのものだろう。

 「照り」は、だから、ここぞという見栄え、というか
豊かなこころにする心配りを意味する、とした方がよさそうだ。ギリシャ神殿では石の柱が美しく並んでいて、真っ直ぐな柱に見えるが、実は中央部にわずかな膨らみをもたせ、細くみえる感じを補正している。これはエンタシスと呼ばれるが、適当な日本語が無かった。「照り」を上述のように解釈するなら、「照り」こそはエンタシスを表わす訳語として最適ではないだろうか。


 ならば、どうして
 ではどうして建築用語辞典には照りも反りも上へ凹な曲線として、同義語とされたのだろうか。
 これは元々、大工が用いた言語であろう。軒先の照り(みばえ)をよくしようというわけで、端の方を少しずつ上げてみたのかもしれない。
 実は妻側破風は屋根面より一段つよい反りをみせている。反り破風(照り破風)と呼ばれているが、反りを深くするには中央を下げ軒先を上げるとよい。そのために軒先の両端を持ち上げたのかもしれない。いずれにしろ、見栄えがよくなり「照り」が出たのだ。
 大工が口伝で「照り」を出す形状を伝授するうち、世代が下って「照り」を形だけのものと理解し、照りも反りも同意として受け継ぐことになったとは容易に想像できる。辞典の編纂者は大工から聞いたことを載せたであろう。聞いた大工がたまたまそのような理解をもっていたとすれば、反りも照りも同じだと記載することになったとしても無理からぬことだ。以降、それを参照したのちの辞典もこれに倣うことになるだろう。よく調査をし、間違いならば正しておきたいものだ。

 
 


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