印刷用    不定期便  第12号
  不定期便 12
ふだん物理学
第8話――009.10.26
 
 発行
2010416
発行者
熊野宗治
 
 

なぜいつも兎の餅つき?
その


    
 月はわずかに遠ざかったり近づいたりする

 ――さらにわれわれは太陽を中心として惑星たちは回っていると思いがちですが、実際は太陽と惑星すべての総和としての重心の周りを惑星たちは回っています。従って、太陽もまた、厳密には同じその全重心の周りに、惑星運動と同じく、微小な半径をもって回っているはずです。
 つぎに、連星に働いている相互間の遠心力はその連星の“重心”へ働いているとみてよいかどうかを調べてみましょう。

   C図

D図

それぞれ質量Mとmをもつ2つの天体のペア(連星)が互いに回転しているとします。回転の中心からMがもつ距離をr、mがもつ距離をrとし、中心に対する角速度は共通ですからωとします。すると各遠心力は
 Mα=Mr・ω
 mα=mr・ω
 この両者は釣合っていて等しく
 Mr・ω=mr・ω
 
 従って
 Mr =mr
 これはモーメント釣合い方程式と一致しており、連星の遠心力の中心はそれらの重心であることがわかりました。

 ――万有引力のほうはどうでしょうか、先ほど來、1つの月を黒丸と白丸の2つからなるとモデル化しました。こんどはその黒白それぞれに対し引力が働いているのではないかと考えてみます。黒丸白丸の重心から地球までの距離はRであるとしておきましょう。
 このとき、Mとmの各質量に働く地球からの引力の和は、それらの重心に質量和が存在するとした場合に働く引力と、必ず等しいのでしょうか?
 C図の場合を見ますと、まず、それぞれに働く引力は
 F=MK/(Rr12mK/(R-r12 
                ……………⑫

 つぎに、重心に働くとした場合には
 P=(MmKR2  ……………⑬
ということになります。これらは等しいでしょうか? ここに、KはK=GMで、万有引力常数Gと地球の質量Mとの積。
 ところが、この⑬式の結果が⑫式に等しいかどうかは、数式計算からは存外複雑になることがわかりまして、⑬式と⑫式との差をとってそれがゼロになるかを試みましたがこれも複雑。比をとってみて1になるかも、難解とあって、ついに放棄してしまいました。
 で、簡便なやり方でありますが、具体的数値を放り込んで確かめることにします。まず、R=100,M=2,m=1,r=1,r=2としてみますと⑫式からは
 F/K=(電卓で)=0.0003001824
と得られ、⑬式からは同じく

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 P/K=0.0003
を得ます。その差異は有効数字4桁目から1824…と続きます。これは端数として現れたもので無意味なものである疑いがあります。R=100に、小数点を多くしてしまう原因があるかもしれません。そこで、こんどはR=10としてみて確かめましょう。
 R=10として、あとはさっきと同じ値を用いますと
 ⑫式からは 0.032153…
 ⑬式からは 0.03      (C図の場合)
を得ます。すると差異は小さいものではなく、1割近くにもなります。これは端数とは考えられません。それからしますと、積分(部分ごとの集積)して得たもの(⑫式)は、重心で計算したものより大きいと言えそうです。このことが、重心に対して重い側を地球に見せる原因でしょうか? もしもr+r≪Rなら、限りなく両者は等しくなります。

 さらに面白いことがわかるんです。
 R=10とする場合に、D図の位置関係だったらどうなるか、やってみました。重いほうが地球に近い場合です。
 計算結果は
 ⑫式からは 0.0316358… (D図の場合)
となりました。C図の場合よりは小さいものの、重心計算よりもやはり大きいです。
 それらの関係は、地球から受ける引力の大きさについて

 (軽いほうが地球に近い場合)>(重いほうが地球に近い場合)>(重心に働くとした場合)

  であることを示しています。仮に「遠近差原理」と呼ぶことにしましょう。このことは意外ですね。《各質量に働く地球からの引力の和は、それらの重心に質量和が存在するとした引力計算よりも大きい》という結果が分かったわけです。

さらに奇妙なことに、C図の場合でもD図の場合でも、重心に働くとした場合よりも大きいのです。しかも、重いほうが地球から遠い位置をとるときのほうが大きいのです。そうしますと、状況がC図からD図へ変化するにつれて、引力の大きさはどう変化するのでしょうか? 諸君、どうです?

 2009年 10月 19日-物語化010.2.21

   
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 地球は太陽に近づいたり離れたりしている

 すこし込み入ったせいか、一座は疲労の色が見え始める。葦郎は休憩を採ることにした。聴衆はそれぞれ、理解のぼけた箇所を教えあい、講師も個々の疑問に答えている。疑問がいくぶん解消したところで葦郎は先へ進める。
 ――先ほど得た関係ですが、その解釈をしてみようと思います。確かなことは、引力の加速度は引力源からの距離rの“2乗に反比例しています。これは距離の違いが誇張されて現れることを意味します。これを「距離効果」と呼んでおきましょう。
  重心よりも引力源に近い偏心部分があれば、この部分には距離が効いて引力を増加させることになります。その部分が軽かろうと重かろうと、重心から遠くにありさえすれば、それだけ引力源にはより接近することが起こり、そのとき引力の増加を招くわけです。連星と呼ばれるものは、互いに自分たちの重心を中心として回転運動していますが、その軽いほうは重いほうに比べ、その中心(重心)からよけい離れた状態になるわけです。 その連星を月~地球の関係に見立ててみようかと思います。つまり、月と一体化した地球がとる太陽との関係です。月はその回転の中心となっている地球系重心から、地球に比べ遠いところにおりますから、月が太陽に近い側にある場合、太陽引力が月に及ぶ逆2乗法則――距離効果――によって、地球系は太陽からの引力が大きくなっているはずです。
 月と地球が並列し公転運動の接線方向をなすとき、つまり月も地球も太陽からちょうど等距離にあるとき、この時こそが月と地球の重心に太陽引力が作用するのと一致した一瞬です。このときがいちばん、地球系に及ぼす太陽引力が小さいときです。それが、月の公転によってしだいに地球のほうが太陽に近く(直列配置)なると、引力は大きくなり、それから再び月-地球が並列して最も小さくなり、つぎには月のほうが太陽に近い側へ回りますと、さらに引力が大きくなるわけです。中→やや大→中→大→中…というように太陽から
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 の引力は27・3日周期の変動重力として地球系に作用するわけです。

 座がすこしざわざわとして、へえ驚いたね、ちっとも知らなかったなあ…と、かすかに聞こえたのはどうやら二才君が友人に囁いたらしい。
 ――その、もしも重力が大きいときに見せるものが餅つきだとすると、月の軽い面のほうを地球に向けるのが、より自然であるわけです。これは現実と逆です。しかし、確率通りでなきゃならんこともありません。なにより一直線に並ぶことが一番なわけです。
 これらのことは、地球系がその変動重力をうけて太陽に近くなったり遠くなったりと揺動しているはずのことになります。つまり、新月の時期には最も大きく太陽へ寄せられ、満月のときにも太陽に寄せられるはずでしょう。よく知られた潮汐で、大潮が現れるのは、その周期によるでありましょう。上弦、下弦の月の時期は、ちょうど月-地球の重心に太陽引力が作用していることに一致し、最も太陽引力が小さいときです。この時期、地球系は最も太陽から遠くにいることでありましょう。
 また、月が太陽に近い位置をとるときには、引力の距離効果により、おそらく月~地球間距離が並列時に比べ引き伸ばされておりましょう。すなわち、新月満月の時期には月~地球間距離は遠くなっていると考えられます。
 月の地質が偏心しているとすれば、そして、仮に自転していたとしたら、同様に月もまた前後にわずかな揺動をみせたでしょう。しかし月の偏心の場合が月-地球の関係と違うところは、月-地球が空間に自由に浮くのに比べ、月の偏心は剛体であることにあります。それゆえ、月の形が地球のほうへ長くなったり丸くなったりすることは顕著にはないでしょう。もっとも、月がいつも同じ面を見せていることは、長い形のまま固まってしまったのかも知れませんね。


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  もうひとつの難問

 ――解決しなければならない問題がもうひとつ、あるんです。なぜ月の自転が公転周期にぴたり一致しているのか?
   これについては先ほどいくつか考えました。そして、それらのどれかが正しいとしても、それならきっと振動しているはずです。月を振り向かせる原因があったとすれば、その偶力によって振動(首振り運動)するはずだが、はたして首振り運動をしているのでしょうか?
 偏心からおこる偶力(モーメント)によって重い側が引かれるとしましょう。それがピタリと止まるためには、その位置エネルギーが最小となったところで、やおら、止まらなくてはならない。そのようなことがありえるだろうか。なにがそれをひき起こしたでしょうか。
 月のまわりの宇宙に水や空気のようなもので満ちているなら、起こりえて当然でありますが、われわれは月の自転に抵抗するような物質や現象の存在を知らないです。いや、知られているかもしれないが、小生は知らんです。

物質を介さず、まったく真空な空間を隔てて、抑制的な作用をするものの一つに、ファラデーの電磁誘導の法則があることをわれわれは知っています。丸く巻かれた誘導コイルは、そのコイルに近づこうとする磁石(あるいは磁界)によってコイルに誘導電流を発生し、この二次的に生じさせる磁界によって磁石の接近に抵抗しますね。その抵抗は、コイルに及ぼそうとする力に応じて抵抗加減を表わし、過分な抵抗――跳ね返すほどの――は決して見せません。これは運動の勢いを、すう~っと減衰させるのです。偏心する月の偶力に働く、そのような(電磁誘導のような)「場」の働きが存在するのでしょうか。それとも、長年かけて振れを止めるような、わずかながら月にも空気が存在するのでしょうか。あるいは首振りによる長球変形によって振動エネルギーが消費されたのかもしれませんが…。

月の由来
 ――それにしても、月の自転周期が公転周期に一致しなければならない理由が見つかりませ ん。先ほど来の、円運動の中心のことや偶力の発見も、さっきの作用で、回転の緩急は見せるにしても、月が首振りをこえるもっと速い自転速度をもつことについては、ちっとも束縛していません。

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そこで小生、どうしても月の地球分離説を言いたくなるんですな。
 玄武岩は地球の至るところにあります。月の岩は地球の岩に似ています。宇宙のどこか遠いところから、ふらふらとさまよってきて地球に捕まった天体にしては、岩の組成があまりに一致しすぎていましょう。それよりか、月は地球の一部であると見るほうがよさそうではありませんか。
 それはまだ地球がどろどろの灼熱時であった何時(いつ)か、たまたま不均等が生じ、――なにごとも不均等は、まれにでなく、生じるもののようですから――当時の地球自転の遠心力によってコブとなって成長し、(それが太陽と直列の配置をとるごとに、先に見た効果によって、長球として()ね上げるのに具合のいい周期であったのかもしれません)ついにちぎれたんです。
 一座にざわめきが起こり、一部の聴衆から異論も出された。が、あくまで個人的意見だとして葦郎は続けた。

 ――地球の自転周期は、月がちぎれ去ってから丸くなる間に慣性モーメントが圧縮され、フィギュアスケーターのスピンのように、自転速度を上げたでありましょう(角運動量保存則)。その結果が現在の地球の自転速度であります。
 月自身の公転角速度は、月~地球の重心に対する角速度に等しくなっているはずですね。月が独立したときの運動速度は、宿命的に現在の公転半径を決定したわけです。
 さて、それでもまだ小生は月の自転周期が公転周期と一致するに帰結する因果関係を明確に特定することができません。しかし、そうなるような物理的作用が起こったに違いないと私は思うんです。私の今後の課題です。事実は、月はわれわれに同じ面を見せています。
 ちぎれる際に、月から重い岩質のものが地球側へこぼれた‥であろう。そのときできた片寄りを直そうとして地殻の大陸移動が始まった‥であろう。地球のほうも重いものがちぎり取られて、その後深い谷となって凹み、海水が満ちて広大な大洋をつくった‥であろう。水蒸気や大気のガスはほとんど、重い地球の側へこぼれた‥であろう。しかし、月にもその気体の少しは残っている!‥
  であろうと私は想像するんですが…。今後の諸君による解明に小生は期待したいわけであります。
   20091026日物語化010.2.21


   『ニュートン』   サルヴァドール・ダリ


まとめ 

○惑星の質量がいくらであろうと、太陽からの距離は惑星の周速度υによって自動的に決まる。 

○月は重い部分と軽い部分とからなるが、一体であるため地球に対しある共通の重心の周りを公転する。本来中心から遠いはずの軽い部分は中心から遠い軌道を回ろうとし、重い部分は逆に近い軌道をとろうとする。その結果、月は重いほうを地球へ向ける。 

○相互に回りあう天体の、互いの遠心力の中心は、それらの中間にある共通の重心である。 

○偏心した月がうける地球から受ける引力の大きさは地球に対する並び方によって異なり

(軽いほうが地球に近い場合)>(重いほうが地球に近い場合)>(並んだ場合)

の順になる(遠近差原理)。 

○月もわずかに自転しているから、球体よりすこし扁平になっているだろう。つまり自転軸方向の直径よりも月の赤道の半径のほうがわずかに大きいであろう。

○地球と月からなる地球系は、地球-月同士の公転から起こる太陽からの遠近差原理によって、太陽に対し近づいたり離れたりしている。

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