A 印刷用        不定期便  第19号
   
 不定期便
 19号

  ふだん物理学 

14 それはなぜ――010.2.9

発行
2010622
発行者
熊野宗治
 
  

潮汐はなぜ起こる 3
           

第13話
 地球の自転は潮汐に影響するか

     地球の自転も影響する?
 休憩を挟んで寺子屋が続く。さっき曖昧になっていた点をもうすこしすっきりさせようというわけである。それで講師は「これからすこし面倒なことを考えるが頑張ってついてきて欲しい」などと言っている。
――図は半径rの地球を天の北極からみたものです。月に対する地球の公転角速度をωとしておきましょう。A点は公転中心OからRマイナスrの距離にあり、B点はRプラスrの距離にあります。「従ってAにかかる遠心加速度は

   α=(R−r)ω ………………@
 Bにかかる遠心加速度は
   α=(R+r)ω ………………A
 だからα<αである」と、いきなり考えるのは間違いであります。
 地球自転を別にすれば、地球の座標に対してA点もB点も回転運動をしていない(恒星座標)
   ことを前提としなければなりません。
 地球の中心Qが公転中心Oに対し1日間にωt=ωで回転した位置にあるとしたとき、A点B点は恒星座標ではA´B´の位置になくてはならんのですね。線分A´B´は線分ABに平行でなければならんです。それがA、B共Oに対して公転していると考え、図1下図の線分Aωωであると錯覚すると、公転分の自転をさせたことになるんです。
 図2
 図2で三つの大きな円はA、Q、B点それぞれが描く軌道円を示しています。自転しないで公転する地上のA、B点は、ωだけ地球が公転したのちにはA´、B´にあり、実はA、B点ともに、公転中心Oに対するQ点の公転と平行して相似にωだけ公転しており(図2参照)、すなわち、A点もB点も公転による遠心力加速度は等しいわけです。 しかし、実際には地球は公転と同じ向きに自転しているから、仮にその自転角速度が公転角速度に等しいだけあったとしますと@A式は正しく適用されるはずで、このときα<αであると言えましょう。あながち、地球自転が地球公転の遠心力加速度に無関係とは、安易に言えんでしょうな。とにかく、
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地球各部に及ぶ少なくとも、月に近い側の月に対する遠心力は月から遠い側に比べ小さいことは言えます。つまり、地球自転は月に対する遠心力を地球上の月に近い側では小さく、月から遠い側では大きくさせる、と言ってもよいかもしれません。
 ちなみに、自転角速度ωの、公転角速度ωに対する比、を見てみますと、[2π/日][0.23/日]=約27つまり、地球自転角速度は公転角速度の約27倍あるわけです。

註※ このことはどの部分でも成り立っているから、たとえ公転中心が地球内部にあったとしても成り立つ。実のところR4.66×10q(第11話2から)であるが、地球の半径rは約6.3×103qでRより大きく、公転中心は地球の内部にある。なお、光が地球を1秒間に7.5周することから求めると、地球半径rはr=6.3×103q となる。

2 地球自転に関する更なる検討
 ――さっきの「地球自転角速度は公転角速度の約27倍」であることは無視できないでありましょう。曖昧のままにしないで確認してみることに、諸君、異存はないでしょうな。仮に自転角速度が公転角速度に等しい場合と、12倍である場合とを図に表わしてみると、地球上の1点mおよびmは図のような軌跡を描くでしょう。図の内円は地球公転の内接円、外円は地球公転の外接円であります。

                図3
 内円に接する瞬間の地上のどの点も、同じ形の軌跡を描きましょう。

  すなわち、月に近いどの点も小さい弧を描き、遠いどの点も大きい弧を描くわけです。諸君はこの図から、小さい弧は公転遠心力を消失させ、大きい弧は助長することを観察することができましょう? 公転遠心力を消失させた分、月の引力が巾を利かせることになるわけです。
 遠心力の弱いほうは強く月に引かれ、強いほうは月からも遠ざかろうとするでしょう。なお、実際の地球は12個でなく、約27個のサイクロイドを描くはずです。
 ――さっき小生は、自転角速度が公転角速度に等しければ@A式は正しく適用され、α<αであると言ったかと思います。その差異は 「−rω」と「+rω」の差ということになります。各部に及ぶ地球自身の重力場については、静止時の地耐力と釣合って完結しているはずです。
 4図では、実際に即して公転中心Oが地球内部にとってあります。右方向を+としましょう。公転角速度をω、自転角速度をωとすれば質点mにかかる引力は  −GM/(R−r)
 公転遠心力*は +Rω
  自転遠心力は −rω
 したがってmにかかる加速度αは、これらの合計 α
=−GM/(R−r) +Rω−rω …B

でありましょう。なお、前にみたように公転遠心力はどの部分も等しいです。
  図4
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地球中心の質点mにかかる引力は−GM/R
  公転遠心力は +Rω
  自転遠心力は  0

 したがってmにかかる加速度α
   α=−GM/R+Rω ……C
質点mにかかる引力は − GM/(R+r)
  公転遠心力は +Rω
  自転遠心力は +rω
したがってmにかかる加速度α
 α=−M/(R+r)+Rω+rω
…D
 中心に比較しますと、mについては
  α−α=B式−C式 ………表E式
 mについては
  α−α=D式−C式 ………表F式
という結果が得られます。
  mについてみますと、E式第1項の[ ]内は 正、[ ]外に負号があり、第1項は負です。第2項も負であり、すなわち中心に比べ左向きの加速度となります。については、F式第1項の[ ]内は負、[ ]外に負号があり第1項は正。第2項も正であり、中心に比べ右向きの加速度があることになります。 E、F式とも、ファクターとして公転角速度ωを含まないから、公転による遠心力は潮汐力に特段影響しないという結果を得たとしてよいでしょう。
 E、F式とも、第1項は月による重力場の、距離による差に起因することを示し、第2項は自転運動による遠心力の差が現われるものとみられましょう。これらと90度離れた部分にも自転による同じ遠心力加速度 rω2 があり海面を膨らませる資格をもっているはずですね。ちなみに、理科年表などの資料によりますと、rωの値は最大(赤道)でも地球重力の0.5%ばかりのものです。赤道で978.03gal、極地で983.21 gal といいます
  から、その差(重力に対する地球自転による遠心力の効果)は5.18 galで、標準980の0.0053ほどになるわけですな。微量と言えば微量です。

        地球自転の及ぼす影響 まとめ
 
 図4で右方向を+、公転角速度をω、自転角速度をωとすれば質点mにかかる引力は−GM/(R−r)、公転遠心力*は+Rω自転遠心力は−rω となって、したがってmにかかる加速度α
 α=−GM/(R−r)+Rω−rω ……B
である。*なお、前にみたように公転遠心力はどの部分も等しい。
地球中心の質点mにかかる引力は−GM/R、公転遠心力は +Rω、自転遠心力は0、したがってmにかかる加速度α
  α=−GM/R+Rω   ……C

 質点m2にかかる引力は−GM/(+)2  、公転遠心力は+Rω 、自転遠心力は+rω 、したがってm2にかかる加速度α2
  α2=−GM/(+)+Rω +rω ……D

 中心に比較すると、mについては
  α−α
  =[−GM/(R−r) +Rω−rω]
   −[−GM/R+Rω]
  =−GM[1/(R−r)1/R]−rω ……E
 mについては
  α−α
   =[−GM/(+) +Rω+rω]
     −[−GM/R +Rω]
  =−GM[1/(+)1/R] +rω ……F

           まとめ
○地球の自転も潮汐力に影響を与えている。
○潮汐は月からの引力が原因である。
○地球公転による遠心力は月からの引力と釣合い、落下を支える役を果たすにすぎない。
○月の側への潮汐力と反対側への潮汐力は釣合っている。
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