A 印刷用       不定期便  第23号
   
不定期便 23 010728

電磁誘導ふしぎ
その2

発行
2010728
発行者
熊野宗治
 
  
 M氏への手紙  2 

電磁気の不思議  

電磁気の不思議でおもしろい性質

 自然界に不思議な現象があります。銅線を輪にしたリングと棒磁石があれば試してみたら面白いでしょう。リングに磁石が(逆でもよいのですが)近づこうとするとき、面白い現象を見せるのです。
 その基礎的な電磁相互作用をみてみましよう。図は導電線をまるく閉じたリングOに対し直角の向きに、磁石の磁場が対しています。

 これまでに知られているところによりますと、リングが自由空間で磁石に対して静止しているならリングには何事も起こらず、リングにはもちろん電流が流れることはありません。また、リングに対して磁石が静止している場合にも、リングに電流が流れることはありません。磁石は磁場を帯びており、その磁場の向きは通例、曲線で示されます。目で見ることはできませんが、およそそんなものでしょう。一本の磁力線の出発と終着は一本で閉じている、と考えられます。

    従って通り道が広ければゆったりと拡がり、狭いところでは密集します。密集するほど磁場は強いでしょう。



 場面@ リングに磁石N極が接近してくるとき、リングに何が起こるでしょうか。このとき、図1から想像できるようにリングの円の内部を貫通している磁力線の数(磁束密度)はしだいに増加するでしょう。するとリングは近づくN極を押し戻すような磁場をつくろうとするのです。これはあたかも生物のような実に巧妙で謎めいた性質ですが、レンツ(Lenz)の法則として知られます。
 図のリングの右側からリング面に垂直な向きで磁石が近づいているとします。質量を有するリングは静止を続けようとする性質――ニュートンの運動の第一法則――を持っています。このときわたしたちが知るところでは、リング導線内に電流が発生しまして、その発生した電流はN極が左向き接近(N極磁束密度の増加)してくることに反抗する向きの磁場を発生させるのです。つまりその磁場は図の右向き(磁石へ向かう向き)となります。これは反磁場と呼ばれます。

図1
 
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 そのメカニズムはといいますと、右ネジを右へ進めるときに廻すべき向きに、リング内電流が発生します。すなわち電流の向きは磁石に向かって右廻りです。するとさらに、そのリング内電流はリングの導線を取り巻くような磁場を発生させるのです。この磁場の向きは右回りです。これはエルステッド(ハンス・クリスティアン・エルステッド)が発見した電流の磁気作用の法則です。

 その結果、リングの誘導電流によってリング円の内側にできる磁界は右向き、リング外では左向きとなります。こうして発生した磁場は磁石の磁場と合成されて、合成後の磁束密度は、互いに打ち消しあう円内では疎となり、互いに同方向となる外側では密となるわけです。ところが、磁場にはさらに興味深い性質がありまして、磁場の中にあって電流の流れる導線は、磁束線に垂直な向きに磁束密度の高くなる側から疎になる側へ力学的な力をうけるのです。ちょうど深いほど水圧の大きくなる水中でうける浮力のようなものです。これも自然の性質であり物理法則です。その結果リングはリングの外側から内側へ圧縮されるような力をうけるのです。
 と同時に、リングに起こる反磁場によって反磁場源(この場合リングに生じた反電流)に正面からの“力”が生じ、リングは左へ押されるのです。左への加速度をうけるわけですね。反磁場がつくった力(作用)の反力(反作用)です。この場合、重力場の加速度とは勝手が違うことに、かなり注意を要します。

 重力の場合には落下の加速度と慣性加速度とは等しいです。重力場は質量がつくります。それに対し、電磁力は質量mのリング全体に対してFなる力を及ぼし、F=mαなるαとして加速度が働くのであって、電磁力Fは質量によってではなく、理論的にはマクスウェル方程式で与えられるわけです
   要するに外部磁場の変化の強度によって決まるわけです。 その電磁力Fによって、もしmが小さければ大きな加速度αで動こうとし、mが大きい場合にはなかなか動かないことになるわけですが、mが非常に小さいなら容易に大きい加速度で動かされる ことになります。しかし、Fは磁石が接近してくる度合い、つまり磁場変化に従っているから、磁石の接近に応じて素早く逃げるなら、その磁場変化もまた減滅することになりましょう。こうしてリングは磁石から同間隔を保とうとするでしょう(もしもリングが固定されている場合には、磁石の動きに対してはっきりと、右のような電流、磁界、力学的力が生れるわけですが)。
 ですから、もしも電流を起こしている電子の質量が無限に小さい場合、あるいは電場の流れにすぎない場合には、ほとんど位相差のない極めて早い相互作用となって、これが電磁波の伝わり速さというものでしょう。その速さは光速cと同じであると言われます。ファラデーやマクスウェルが予想したcであります。

 場面A こんどは磁石のN極が図2のように遠ざかろうとする場合はどうでしょうか。この場合にも誘導電流は生じます。面白いことに、こんどは減少しつつある磁束を引きとめ、磁石の去るのを引きとめようとする向きに働くのです。 図2 

すなわちコイルは相手Nに対してS極をつくろうとする向きの電流(磁石へ向かって左廻り)が発生するのですね。磁場状態を変えまいとする、あるいは保とうとする、と言ってもよいでしょう。

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これも自然が持つ性質であり、われわれの思惑や推論に関係しません。 その結果リングは引かれて、図では右への加速を受けます。すなわち誘導電流の向きは磁石に向かってS極をつくろうとする向きで、誘導磁場の向きは図の場合左向きです。右ネジを左へ進めるためにドライバーを廻す向きに電流が生じるわけです。
 その電流が導線の周りにつくる磁界(電流が進む向きに右ネジを廻す向きに、電流を取り巻くような磁界ができる)は必然にリング円内を図の左向きへ貫通します。つまりその磁束密度はリング円内で高まります。リングはその結果内側から外側に拡張させる向きの力をうけるのです。
 これはまるで去ろうとする者を引き戻すときの筋肉のようですね。筋肉は太くなって筋繊維を縮めます。

 場面B つぎに、磁石のS極側が接近するときはどうでしょうか。リング内に磁石がつくっている磁束の向きは図で右向きです。

図3

 リングは近づいてくる磁石のS極に対抗して磁石の側へS極をつくろうとし、左向きの磁界をつくるのです。導線に発生する電流の向きは@とは逆になります。近づく磁石に反発しましてリングはその反力をうけ左への加速をうけます。
 磁束の密度はリングの外側で密、内側で疎となり、リングは外から内への力をうけ圧縮されます。
 リングに作用する力は@の場合と同じです。
   場面C 最後に、磁石のS極側が遠ざかるときはどうでしょうか。リング内に磁石がつくっている磁束の向きはBと同様、右向きです。

図4

後退しつつあるS極を引きとめようとして、コイルは相手Sに対してN極をつくろうとする向きの電流を発生させましょう。リング円の内側で右向きの磁界をつくります。導線に発生する電流の向きはBとは逆です。リングに作用する力はAと同様で、遠ざかる磁石を引き戻そうとし、リングはその反力をうけ右方への加速をうけましょう。
 磁束の密度はリングの内側で密、外側で疎となり、リングは内から外への力をうけ拡張されるでしょう。


 押せば押し返し、引けば引き戻そうとする電磁気のおもしろい性質を見てきました。前回のお話に、IHヒーター上で薄いものや軽いものが振動を起こすことがあると述べられていたことが思い出されます。これらの基本的な性質から、その原因が推し測られましょう。

 

これらのことを次にまとめておきます。

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…………まとめ…………

 

@リングに磁石N極が近づく

リングは(押し返そうとして)左へ押される

リングは圧縮される

リングの電流が磁石に向いて右回りに生じる

 


AN極が遠ざかる

リングは(引き戻そうとして)右へ引かれる

リングは拡大される

リングの電流が左回りに生じる

 


BリングにS極が近づく

リングは左へ押される

リングは圧縮される

リングの電流が左回りに生じる

 


CS極が遠ざかる

リングは右へ引かれる

リングは拡大される

リングの電流が右回りに生じる

 
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