B  印刷用       不定期便  第32号
 
 
不定期便
 32   

 止まらない独楽 その1


発行
2011217
発行者
熊野宗治
 
 止まらない独楽

その謎解き           


 物性の「助っ人だましい」

以前、『光速の背景』で触れました超伝導の話のところで、あるいは不定期便の23号あたりの「電磁場の不思議…」のところで、反電流のことをお話したと思います。磁石の上に冷却した超伝導体を置こうとすると、反発を受けて宙に浮く、マイスナー効果という現象が実際に見られます。私はそのとき、物質は原始の「天の邪鬼性」を持っていて、推せば押し返し、引けば引き返す反応をすると申しました。
 磁石の上空で超伝導物体が浮くのは磁石の磁場によって超伝導物質に反電流が生じ、同じ距離を保とうとするのだ、という根元的な物性について論じたわけでした。

 まったく動きの衰えない不思議な玩具を、博物館でいま初めて見つけた私は、この日この時まで、小生の頭に反電流のことしかなかったのです。そういえば、たしかに、「反電流」があるのなら、どんな状況下にしろ、順電流というものがあり得ないか?と、どうして思いつかなかったでしょうか!

   その性質があるとすれば、押してくるやつはなお引っ張ってやる、相撲の「引き落とし」のような技があってもよさそうなものでは…、それは万有引力に似た働きでしょう。「助っ人魂」と名づけてはどうでしょうか。買って帰ったその玩具というのは「Magnetic Top」というものです。台湾製で、小泉商会というところが輸入しているようです。これをちゃんと説明できる人は、高校の理科の先生にもなかなか居ないでしょう。附属の小さいこまを、弧状に凹んだ箱の上で、指先でちょっとだけ廻してやると、自分で回転を上げ、勢いを増してゆくんです。自然界ではありえない現象です。
 もちろん、実際に自分の目の前でそれは起こります。エネルギー保存の法側という物理法則からして、そういうことはありえないものです。それには、もちろんからくりがあって、コマにエネルギーを与えるための装置が、箱の中に組み込まれてあるわけです。面白いのは、これにちゃんと説明をつける先生は、あまり居ないだろうということです。もしこれが偶然から見つけたものではなく、理論から発明してこの玩具を作ったものだとしたら、相当に頭脳の優れた人に違いありません。

 小生はこの謎を解いてやろうと考えました。このコマにエネルギーを注いでいるのは、磁場に違いありません。エネルギー保存の法則への反逆はそれで説明がつきます。しかし、それがいかなるメカニズムで、箱の中に込められた装置から小さなコマに与えられるのか?
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     不定期便  第32号
 外見的には、コマが落ちないようにすこし凹ませてある箱の上で、普通に廻っています。これを廻すための見えない糸がコマに絡ませてある訳でもありません。どのようにすればコマの回転を促すような加速度が加えられるのだろうか? 箱を開ける前に、自分でそのメカニズムを考え出そうとしてみましたが、思いつくことが出来ませんでした。完全にシャッポを脱いで、開けてみることにし、電池をつなぎました。
 
 中身はあっけないほど単純なつくりでした。髪の毛ほども細い銅線で重厚に巻いてあるコイルが、
中心の鉄芯に落とし込まれているだけです。コイルの端部がその電池につなげられるように作られています。コマのほうは図のように、永久磁石の小さな円盤が埋められています。しかし、このままではコマを廻す働きをするはずがありません。

 変動しない磁場は、どんな電流もコマに生じさせません。これまでに小生が抱いていた先入観によるなら、廻されているコマは反電流によって抑制されるはず…というものです。いったい、コマを廻る方向へ誘導しようとする作用はいかにして生じるのだろうか?

 小生はその構造がどうなっているか調べようとしました。幸い、その機構は透明なビニルシートに簡単に包まれているだけで、そのまま見られる状態でした。それは誰に見られても、それを理解して模造する人物など現れまい!と言っているようです。
 目を凝らさないと見えないくらい細い銅線は、コイルの端部からたどってゆくと、どうやら電池と直列につながるようです。これだけでコマは廻るはずがありません。非常に単純な構造ながら、よく見ると、マッチの頭ほどの小
   さくて黒いものが端子につなげられています。非常に単純な構造ながら、よく見ると、マッチの頭ほどの小さくて黒いものが端子につなげられています。非常に単純な構造ながら、よく見ると、マッチの頭ほどの小さくて黒いものが端子につなげられています。
 小生は、これはコンデンサーであろうと考えました。コンデンサーは、コイルとは並列につないであるようです。そこへ電池が並列につなげてあります。すると回路は、どうやら図のようになるでしょう。これはラジオの配線などで、発振回路としてよく用いられるものです。増幅回路としても組まれます。固有振動数を持つ水晶を組み込むと、水晶発振器ができましょう。
  
推定回路

コイルはこれまで度々お話してきたように、反抗作用があります。運動物体の慣性のような、なかなか動かない働きがあります。変動電流に対して変化させまいとする働きです。IHヒーターで出遭った、反電流を起こさせる張本人です。

コンデンサーのほうは+−の薄い両極が向かい合わせにあって、互いに引き寄せ合った静電気がここに貯められる素子です。つまり、+−の電子があれば素早く引き合い、コイルとは逆に加速度のような働きをします。

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 図のようだとしますと、電源を入れた(電池をつないだ)瞬間、コンデンサーに電気が溜まり、その後はコイルの中を一定電流が流れ、静磁場をつくります。電池がつながれコンデンサーに電気が溜まる瞬間に、コイルには大きな反電流が流れ、そのほとんどはコンデンサーへ流れます。コンデンサーにいっぱいになると、コイルに流れる。コンデンサーにいっぱいになると、コイルに流れる電流は順電流に変わってその後は静磁場をつくるでしょう。電流は流れつづけます。このままではコマを動かすはずはありません。ではどうして、このコイルの装置はコマに推進力を与えるのでしょうか?
 それは最初にちょっとだけ、人の指で廻してやることに始まるでしょう。コマには小さな永久磁石がつけてあり。コマを廻すことでその磁場も回転します。

 コマ

装置のコイルは、こんどはコマの変動する磁場に感応して、この回路の性質(助っ人精神)からくる順磁場をつくろうとする向きの電流成分が(通電中の電流に加わる形で)コイルに生じると見るべきでしょう。この性質はちょうど強磁性体が磁界に対して順磁場をつくろうとするのに似ているでしょう。
 この電流はもちろん電池が供給します。この順磁場成分はコマの回転によって生じるものですから、コイルのその成分の電流がつくる順磁場はその回転に合った早さで、常に早め早めに生じるわけです。そうして、コマがどんな早さになったときにも、ちょうどコマの永久磁石
   に合った電気振動を起こさせているわけですね。こうして、なめらかに加速されてゆくのでしょう。
 なお、以上の原理は、コマの回転が逆になっても同じですから、反対向きに廻しても同様なことが起こるはずです。試してみるとその通りでした。


 普通、交流をコイルにかける場合は自己誘導を起こして電流をほとんど止めてしまい、電力消費がありません。しかし直流をコイルに流すときは、自己誘導はすぐになくになるため電流は止まらず、消費を続けることになります。この玩具はコマの振動(磁場の)からコイルに変動を起こさせるために、(この回路図が正しいとすれば)常に流しておく必要があります。
  つまりコマを廻していないときにも、常に電力を消費するため、いずれ電池は空になって取り替えざるを得ません。その非効率はおもちゃであることに免じて赦されましょう。なるべく長続きさせるためには電流を極力絞っておくのがよく、それゆえ極細の線(長さを長くして抵抗値を高めてある)が巻かれているのでしょう。案外と、そう言ってはなんですが、中国製にしては細やかな神経が注がれています。 遺憾ながら、その磁力線の変化がどのように動いているか、というところまでは、それは非常に複雑な変化をしているはずで、小生のアタマでは解析困難です。 

順磁場をつくろうとするメカニズムについて、なぜそうなるのか、私にはまだよく判っていません。今のところ、そういう性質を物性が持っているとしか理解しようがありません。本来、磁場同士、方向をそろえようとする性質をもつのでしょうか?
       あとは次回にいたします。

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