B 印刷用は   不定期便  第33号
 
 
不定期便
 33

   止まらない独楽 その
発行
2011227
発行者
熊野宗治
 

止まらない独楽

驚異の玩具 

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 もっとほかに面白い作用が見つからないか?と、内臓確認を試みました。そうするうちに、電池をつないだ状態でも、コイルは鉄球を吸い付けないことに気付きました。もし前回の回路図が正しければ、コイルと電池は直列になっていて常に電流が流れる状態にあるはずです。電流が流れているなら鉄芯は磁化していて、鉄球を引きつける力が働いているに違いありません。ところが、全くその作用が感じとれなかったのです。
 どうやら、回路図がまちがっている可能性があります。それでもう一度、こんどは巻いてある透明な粘着テープを剥がしてみると、コンデンサーの足は2本ではなく3本になっていることが判りました(@図)。そして、よくよく導線を見ながら、丹念にたどってみると、コイルは内外2段に別けて巻かれ、A図のような回路になっていることが認められました。
 そこで、回路図を見ながら考えて見ますと、前回私に不明確であった「なぜ順磁場は生じるのか?」を解くことができたと言ってよいでしょう。
 @図は導線をたどりながら書き取った概要です。鈎状の濃い線はコイルの台にハンダ付けしてある太目の線で、端子代わりに付けたものでしよう。

  円はコイルで、濃い丸のなかは中空です。全体が中空部で鉄心に落とし込まれています。
    @図   
    A図 読みとった回路図

 回路図ではコイルを一列にならべましたが、実際には細いコイルは太いコイルの中に差し込まれた形になっています。まず2段になったコイルに注目して観察してみましょう。それには次のような使い方がありましょう。  

           
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     不定期便  第32号
  内コイルに流す電流が交流(波形の入った小丸が交流電源を示します)であれば、巻き数を多くした出力側では大きい電圧になって、位相は逆転しています。位相が逆転するのは、電磁誘導は対抗する向きに生じるからです。これはトランス(変圧器)というものに他なりません。本件のコイルも同様にトランスになっているものです。

 さて本件の場合、コイルの太い側(外巻)を一次側、細い側(内巻)を二次側としてみましょう。コマの回転からきている外磁場が、図のようにN極が増している場合、としましょう。
 すると一次コイルは電磁誘導(反電流によって生じる)を生じ、外磁場に抗する向き、図では上向きとなります。この向きの電磁誘導は内巻の二次側でも生じています。この誘導に対して二次側(鉄芯に近い)では反電流(自己誘導のようなもの)がコンデンサーと電池の起電力とコイルの巻き数によって増幅されて、一次誘導に抗する向きつまり下向きで電磁誘導を起こしましょう。結果的には外磁場の向きと同じになります。すなわち順磁場です。これはたいへん増幅されています。さらに鉄芯によって磁力線は強化され、コマの永久磁石の磁場に及び、それは位相反転によってコマの磁場変化と向きが同じになっています。つまり、順磁場となってコマの磁場変化は促進されます。一つの謎が解けて、追い風となってコマは勢いを増すわけです。もちろん増幅された磁場変化へのエネルギーは電池の電力が供給します。喩えてみますと、大きいコイルの一次側はコマの音を聞き取り、(それ自体はコンデンサーで感受性が向上されている)耳の役割を果たしますが、電池は直列していず、それ自体では増幅していません。


    鉄芯に近い二次側は、一次側で聞き取った音を位相反転しながら増幅する働きをして、コマのほうへ指令を出しています。 こんどの小生の見直しによって、電池の線は途中の空隙で断たれていて、コマを廻さなければ電池の消耗もないことが分かります。そんな賞があるなら「玩具大賞」でも与えられるべき、驚異的に優れた玩具であります。


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 しかし、なお、もやもやが残っています。自分で決めておきながら言うのもなんですが、いったい、こんなに小さなコンデンサーはあったものでしょうか? コンデンサーは向かい合わせの面積によってその容量を得ます。近代の格段に進歩したナノテクノロジーをもってすれば可能なのかもしれません。それから、3極のコンデンサーというものは市販されているものか?という疑問です。インターネットで探してみても見つかりませんでした。ということは、あの米粒ほどの部品はコンデンサーではないのかもしれません。三本足で次にすぐ思い起こす電子部品はトランジスタでしょう。再びインターネットで調べますと、それらしいものが見つかります。

トランジスタというのは、両極がエミッタ(E)とコレクタ(C)になっていて、エミッタにマイナス電荷の電子が、電池からの供給によって溜められます。コレクタは陽極となって、正孔(陽電子に相当するものとされます)ができます。エミッタとコレクタの中間にPという層が挟まれてあって、ベース(B)と呼ばれる極になります。
 トランジスタは図(まるい円の図)のように表記されます。図は一般的なnPnという3層からなるものです。

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 PnPもありますが、その場合の表記では円内の矢印が逆の内側へ向けて書かれるようです。 


 
B図
 トランジスタに置換えた図
    

トランジスタはかつての真空管に代わるものとして発明され、増幅器としてよく用いられます。C〜E間に電池(または直流電圧)がつながれ、これに直列に出力を得ます。B〜E間にも通常電池(あるいは回路の交流電圧)がつながれ、ここに入力波が入ります。Bに波の正電圧が加わると、エミッタから電子が引き出され(電流は電子流と逆向きに約束され、電子の出るE極へ矢印のように電流は向くことになります)、その勢いの余ったものは陽極のコレクタまで到達するようになり、Bへの入力に従って出力側では増大(増幅)するのです。

 そこでこの玩具の回路を見ますと、どうも腑に落ちないのは、三本足の真ん中がBだとすると、この玩具ではB極に電池が入れられています。トランジスタ回路でいう出力側ではないところに電池が挿入されているのです。これだと、コマの磁場変化を捉えるのは内巻コイルの役目ということになり、ここに電池が入れてあるわけです。出力側ではありません。増幅回路としてのトランジスタの使い方は 

   
            C図

C図のようにするのがよいはずでしょう。しかし、当面このままB図を受け入れることにして、これがどう動くかを考察することにしましょう。

 コマから来る外磁場は今コマのN極が増加(図の下向き)するときコマ運動を促進するように働いているものとします。それが有効に作用する限り、一次コイルは外磁場に抗して反対向きの磁気誘導を生じておりましょう。すなわち、図では上向きです。このとき回路ではトランジスタ内部でCからEへ電流が流れるには図の右回りに流れるように、コイルの巻き方向が決まっているはずです。
 すると二次コイルは一次コイルに抗して電磁誘導を起こし、方向は逆、つまり下向きとなります。コマの磁場に対しては()磁場です。その電流が電池のつくる電流の向きと同じなら促進(ヽヽ)されます。電流はベースへ流れ、正孔を補充します。ベースへの正孔補充は一次側回路電流の流れも促します。二次側巻数を大きくしておけば(内巻コイルは鉄心に近いだけ巻数を多くしたのと同じ効果を持つでしょう)、二次誘導を強くすることができます。

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  ところで、外磁場のS極が近づく場合はどうでしょうか? 回転しているコマからは、そういう磁場変化をする瞬間は必ず訪れます。交互に訪れます。外磁場のS極が近づく場合と、N極が去る場合には、一次側コイルは先とは逆に、図の回路を左回りしようとします。しかしこの方向は半導体であるトランジスタ内では流れない向きです。従って外磁場に対する誘導は起こり得ません。当然、二次側でも起こらないことになります。このことは結局、コマの磁場変化のうち、片側についてのみ、コマ回転を促進する働きが生じることになります。ちょうど自転車の踏み足だけで走るのと同じです。これは整流器でもあるトランジスタの宿命でありましょう。  

コマの断面

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一応これで、この玩具の謎を解明したものとさせていただきましょうか。しかし、この実際には以下のようないくつかの疑問が残ります。

 @この玩具ではなぜ電池の陽極がコレクタ側にではなく、ベース側につなげてあるのか?
 Aなぜ外磁場感知のコイルがベース側ではなく、コレクタ側へつないであるのか?

 Bもし外巻コイルのほうがコマへ作用するものとしてあるものだとすれば、なぜこの回路に電池を入れないで可能なのか?

 トランジスタの従来の使い方によりますとC図のようであるのが効率がよいと思われますが、なぜ実際図のようにできるのか?

    それでも一応電池からのエネルギー補充はできるわけですが…。台湾でつくられたときにつなぎ間違えたものでしょうか? それとも模倣者を混乱させて企業秘密を守るために、トランジスタ自体をBとC、あるいはBとEを意図的に入替えて作られているのでしょうか。 

 ところで、この玩具は元々は米国育ちであるらしいことが判ってきました。それは更に宙で回転を続ける「LEVITRON」にまで発展していることが、インターネットを調査すると知られます。どうも、大手の玩具会社かロボット開発会社かが製造元ではないでしょうか。動画サイトの「YouTube」でそれを見ることができます。
 商社のホームページらしい、英文なのでまだよく読み取れませんが、LEVITRONの最も分かり易い説明として、ブリストル大学のMichael V.Berry博士による論文が掲げられていました。はっきりしたことは言えませんが、その解説では私の磁気誘導説とは別な観点からなされているようです。

 つまりこの玩具は一個人の発明というより、玩具製造会社によって開発されたものでしょう。今のところ私にはそれがどこの何と言う会社なのかわかりません。買ってきた製品の箱に書いてあるので台湾製として間違いないのかもしれませんが。

 

本件は一旦これで終えることにいたします

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