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印刷用は 不定期便 第35 |
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不定期便 第35号
自然災害
津波に向き合う 1
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発行
2011年3月29日
発行者
熊野宗治 |
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この春、大震災が発生しました。――その威力を推計し、考えることを記述してみます。
平成23年東北地方太平洋沖地震――これが気象庁による命名です。
2011年3月11日の14時46分ころ、東北地方全域にわたって強い揺れがあって、およそ30分以後に大津波が襲いました。津波は茨城県以北の青森、岩手、宮城、福島の諸県にわたる広域な臨海の市町村に、気の毒な壊滅的被害をもたらし、ただただ全域を瓦礫で蔽い尽くしました。
震源は東北地方海岸から130㎞沖、深さ約10㎞のところです。この地震はM8.8から最終的にはM9と見直され、これはチリ地震(S.35 M9.5)、アラスカ地震(S.39 M9.2)、スマトラ沖地震(H.16 M9.1)に次ぐ世界第4番目に大きい地震ということになります。
地震の原因は、日本本島の乗る北米プレートに接する太平洋プレートの沈み込みに
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面する、東日本の海岸線にほぼ平行した長い隆起(跳ね上がり)であると見られています。つまり東西200㎞南北400㎞(気象庁)が滑り面です。その付近で隆起し、その結果、代わりに陸地が50センチほど沈んだようです。図は私の勝手な予想模式図ですが、点線で表わした元の陸が、地震発生後に実線のように海洋で跳ね上がった状況を示します。
(図は誇張してあります)
そうしますと、断層付近で隆起して増した断面積の和、図のS0は、そこから奥地すなわち列島の陸地あたりでその代わりに沈降した断面積の和Siとは、(各層で密度に変化がないとすれば)等しいはずでありましょう。
もしこの地殻変動によって地球の密度がわずかにも増大するとすれば、SiはS0よりわずかに大きいでしょう。
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この件に関連して地球物理学者リチャード・グロス氏による「1日の時間が100万分の1・8秒短くなった」という発言があります(もっとも、密度変化によるとは書かれていません)。
私は、表層(地殻部)では密度変化はないか、あったとしても極微であると考えますが、高かった部分が低くなれば慣性モーメントの低下となってわずかに自転速度が上がるであろうということは、理論的には言えるかと思います。ではこれまで、歪みの蓄積されてきた過程では、自転が遅くなっていたのでしょうか?この議論は細かすぎてなんとも言えません。
ともかく、震災を大きくしたのは想像を超える恐ろしい津波でした。
茨城県より以北4県(青森、岩手、宮城、福島)の臨海市町村の広域な奥地にまで押し寄せ、住宅の全てと中小建物の悉くを破壊し尽くし、瓦礫に覆われた大地に戻しました。延べ400平方キロメートル浸水(国土地理院)したといいます。
恐怖と苦痛の犠牲となった、おそらく2万人を超えるであろう、御魂の冥福を祈りつつ、この想像を絶する大津波のエネルギーを、小生なりにごく大雑把に算出してみようと思います。
この悪夢のような災いの中にも、国じゅうが助け合い団結を強めています。それと、多数のこころ温まる物語や友情溢れる世界各国からの励ましの言葉(ことごとく涙するものですが)については、ここでは触れないことにします。
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さて、建て替えに際して1棟を取り壊すにも、重機やブルドーザを用いて煙を吐きながら相当なエネルギーを消費します。一夜にしてその全棟を果たし、残りは海洋へ引き返したはずです。
東日本沖で、プレート間の摩擦が解けてせり上がった幅をW0㎞、長さをL㎞としてみましょう。その跳ね上がり鉛直高さが最大⊿h0㍍(最大4㍍あったと聞きます)とするとき、この細長い三角形をつくる断面積をS0と仮定します。Wは三角形を形成する幅です。これは上下動の不変な地点である「節」から断層までの距離です。この幅は震源の幅というべきもので、断層の滑り幅W0として示された200㎞よりも大きいと考え、大雑把ながらW=300㎞と仮定してみます。すると、プレート盛り上がり断面積S0は平均
S0=(1/2)W×⊿h0 となります。
こんどの断層によって海水はその断面積に相当する量を持ち上げられるわけですが、その重心がどれくらい上昇するかをみます。隆起したプレートに乗っている海水は隆起直後に同じだけ持ち上げられると見てよいでしょう。図心とみられるその高さは図から⊿h0に対し3分2の量となって、平均隆起高⊿hは
⊿h=(2/3)⊿h0
その海水量Vは
V=S0×L ㎞3
ということになります。 |
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(図は誇張してあります)
一方、断層の滑り面の傾きは思いのほか平たく、インターネットからの情報によりますと水平に対して10度と浅い傾きを持つとのことです。文部科学省地震調査委員会によればその量(右図dW相当)は最大20mに達したといいます。
10度は小さい角度ですから円周=2πrからその360分の10として、近似的にsin10o=(1/18)π=0.2を得ます。情報の滑り量約20mとしますと、⊿h0=20sin10o=4mつまり鉛直には最大4mせり上がったことになります。
持ち上げられた海水の位置エネルギーE0は
E0=Mg⊿h (⊿hは重心の上昇高さ)
Mは海水の質量で海水量1m3あたり1㌧(1000㎏)です。海水量Vは
V=S0×L=W×(⊿h0/2)×L
=(1/2)300㎞×4m×400㎞=24×1010m3
その質量は24×1010㌧、すると持ち上げられた位置エネルギーE0は
E0=Mg⊿h=Mg(2/3)⊿h0
=24×1010×g×(2/3)×4m ton・m・g
=64×1010g (gは重力加速度)
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上図から推して、その4分の1が陸地を襲ったとみますと
E1=(1/4)E0=16×1010g (ton・m・g)
この津波エネルギーに対して、防波堤によって大まかに半減されたとして、陸に及んだ津波エネルギーE2は
E2=(1/2)E1=8×1010g (ton・m・g)
これはどれくらいのエネルギーでしょうか。
いま10㍍立方のコンクリート塊を考えましょう。体積は103m3です。その重量はρ×103で、ρ=2.4とすると2.4×103tonです。これでE2を除してみますと、
8×1010 (ton・m・g)/2.4×103(ton・g)
=3.3×107m
=3.3×104㎞ =3.3×103×10㎞
つまり10㍍立方のコンクリート塊3300個を1万メートル上空まで運ぶほどのエネルギーに相当します。この全てを建物倒壊に費やしたわけではありません。津波が破壊に要したエネルギーの残りは再び海へ戻ったのです。 |
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そのエネルギーはいくらかといいますと、陸地への浸水面積に平均水深を乗じ、これにその重心の海抜高さを乗じて重力加速度を乗じれば得られますが、その計算は省略しましょう。
E2は何ジュールに当るか計算してみます。1N(ニュートン)の力で物を1メートル動かす仕事量を1ジュールと定められています。1ニュートンは質量1㎏の物体に1m/sec2の加速度を生じさせる力です。すなわち、1N=1kg.m/sec2 です。するとE2は
E2=8×1010g
=8 ton×1010m×9.8m/sec2
=7.8×1014m・N=7.8×1014ジュール
100ワット電球は1秒間の点灯に100ジュール消費します。1時間では3.6×105Whです。今度の津波のエネルギーはこれを何個点灯するものかといいますと
7.8×1014/3.6×105=2.2×109個(/時間)
=9000×104個(/日)
つまり9000灯を1万日(27年間)点灯するエネルギーに相当します。これは東北地方に押し寄せた津波だけのエネルギーです。震災のエネルギーはそのほかに地盤から伝わる地震エネルギーが加わっているわけですね。
それでは次回に
2011年 3月28日 |
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