R  印刷用は      不定期便  第109号
   
 
不定期便 109   014  1215

    エネルギー貸借の原理
発行
2014年12月15日
発行者
熊野宗治
 
     

貸借の原理
      014/9/6





――実験が示した物理

 

先頭に付けられたマグネットがもたらす活力とは、何でありましょうか? このマグネットは落下球に対し何をしたのでしょうか?

 

<マグネットが働いたメカニズムとは?>

運動力学的な見方によりますと、振れ落ちてくる玉を磁力は引き寄せようと、玉を加速したにちがいありません。

観ていますと、落ちてくる玉からこのマグネットが引き寄せられるようには見えません。マグネットは後続する4つの玉たちを引き付けていて、この玉たちと一体化しています。それ故、マグネットは、落ちてくる玉に対して自らの4グラムという質量ではなく、4つの玉たちとの団結力によって414×4=60グラムの質量を持つ物体であるかのように振る舞い、14グラムの落下球をほぼ4:1の比で加速するのです。

落下球がマグネットに当たる寸前の運動速度を想像しますに、まず間違いないのは、玉の位置エネルギーmghの変化である速度と、マグネットの引力により加速される未知の速度χとの、和になっておりましょう。衝突直前の玉のエネルギーは
  
1 m(υ+χ)2 …………@
2



に違いありません。この玉は初群の玉の先頭にくっついて止まり、代わりにこのエネルギーを最後尾の玉が帯びて飛び出し1、後群の先頭にぶつかります。仮に玉が完全弾性体(反発係数e=1)であるとしますと、飛び出した玉に託されたエネルギーは

1 m(υ+χ)2 
2

 

 
のはずで、空気の抵抗を無視できるとすれば、それが第2群の頭を撃ち、実験によりますと、同群最後尾の球がアンカー(最終ランナー)として同様の速さで飛び出すでしょう。このエネルギーもまた

1 m(υ+χ)2 
2

 
 
のはずです。このエネルギーでこのアンカーがHまで昇ったとすれば、その位置エネルギーは(1/2) m(υ+χ)2 と等しいのがエネルギー保存の法則であります。すなわち

1 m(υ+χ)2 =mgH……A
2

 

 
という方程式になります。これを解きますと打撃球(落下球)が最初にマグネットを叩く速さχが求まるはずです。そうしますと、
  υ+χ=√(2gH)   χ=√(2gH)−υ
υはマグネットを付けなかった通常実験から割り出されるところの

   1
 
      不定期便  第108号
gh = 1 mυ2   ……B
2


 
(計算すると4.5×10エルグ) のυのはずです。これからυ=√(2g)、しかるにχは
  χ=√(2gH)−√(2g)
 ここで実測値Hは完全弾性体の場合のHに換算しますと、H0.647Hであると推測されます。つまりH=H/0.647。すると加えられた速度χは137.04p/secと求まります。
 あるいは落下球がマグネットに当たるまでにマグネットが玉に与えたエネルギーEχ
   χ(1/2) mχ2 
      (1/2) m〔√(2g)−√(2g) 2 
2、これはm=14g、g980p/sec2、H8.4p(実測値)、h=3.4pを用いれば、Eχ13.3×10エルグという実験結果になります。なお、通常でのυはυ=√(2g)から、81.6p/secと得られ、υ+χは218.6p/secにもなっていることになります。

以上は運動力学から見た考察です。大きな誤りはないでしょう。


<玉はなぜ落下高を超えたのか>
 これまでの常識は、落差hの打撃球に打たれた玉はベストの場合で同じ高さhまで昇る、というものです。もちろんこれは伝達率=1(完全弾性体)で、空気の抵抗なしとした場合です。そして事実、実験でもほとんどこの通りでした。
 今回の実験はこの常識を覆し、撃たれた球のほうが打撃球の落ち始めた高さをはるかに超えることを明らかにして見せたものです。
  引き金を引くまではどの玉も静止していました。ただ初群の先頭にはマグネットが付いています。もちろんこれも静止しております。この静止している系から始まって、打球は打撃球よりも高くまで昇ったのです。エネルギー保存の法則で云えば、どこからかエネルギーが湧くわけでも、消滅するわけでもないはずでした。

    わたしが何かしたのでありましょうか?(以下014/9/6) 引き金を引いたほかに、何をしたのでしょうか? つまり、法則が間違いないとしたら、位置エネルギーと運動エネルギーのほかに、諸君、何らかのエネルギーがこの系の中に潜んでいる――ということにならないでしょうか。
 運動エネルギーは最初の静寂があった場所――座標――に対して玉が動く運動速さおよびその玉の質量が関係しています。
 位置エネルギーとは、その質量が地球の重力に引かれている中を、いくらの高さまで打ち上げられるか、あるいは落下させられているかに関係しています。すなわち、物体の質量と、質量の加速度の下で動いた距離です。重力の加速度はこの実験の全体を通じて不変でした(厳密には不変ではないのですが)
 これらのほかに、どんなエネルギーがあるというのでしょうか? わたしはそこへ何かを付け加えてしまったのでしょうか?
 付けたとしたら、あのマグネットです。それにちがいありません。では、それはどんなエネルギーでしょうか。

  さてマグネットというのは物を強く引き付け、あるいは斥けたりします。しかし、マグネットはエネルギーを造り出すことはなく、従ってマグネットだけで車両の走行など、連続して働かすことはできません。電磁石としてモーターを回すにしても、その仕事をさせるのは磁力ではなく、電流なのです。電力の供給なしに列車を走らせることはできません。もっとも、磁気はバネのようにいくらかの仕事をする“能力”を持っているようです。重力と似ています。

<磁石の底ぢから>

 重力は質量がつくり出し、重力によって落下したものは再び持ち上げなければ同じ仕事をしません。“再度持ち上げる”必要があります。 磁力も同じでありましょう。
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      不定期便  第108号
 磁力は質量をではなく、磁荷を引き付けますが、このとき働いた仕事をもう一度させるには、磁荷をマグネットから引き離さなければなりません。外部からその仕事をする必要があります。実験での落下球を、重力の加速度を超えて加速させたのは、そのエネルギーをマグネットが持っていたからでありましょう。その仕事を終えたあとにも、残されたエネルギーをマグネットは持っていて、付いた玉を引き付け続けていますが、単独であったときよりも、マグネットは引きつける能力を減少させているにちがいありません。
 同じ実験を繰り返すためには、わたしはこのきつく付いた玉たちを引き離さなければなりません3。マグネットをやっと単独にさせることができたとき、わたしはマグネットに対し(外部から)仕事をして返し、マグネットはそれだけのエネルギーを取り返し(回復し)ています4


<エネルギー貸借の原理とは?> 014.9.7
 その発想を促す実験
 実験を見てわれわれが驚いたのは、玉が持つ速さと重力場による潜在的エネルギー――これを“位置エネルギー”とわれわれは呼んでいました――との関係をわれわれはよく知っていて、その他のことはわれわれの念頭になかったからであります。
 わたしがいたずらを思いついて、(と言っても、そのヒントになるのは以前に観た映画『容疑者Xへの献身』なのですが…)強いマグネットを玉の前に付けてみたとき、もう一つの潜在エネルギーを付け加えたのに違いありません。それはどうやら磁気の力――磁界(磁場)――を加え、このため玉は磁場のエネルギーをも、持ったことでした。
 通常よく見かける実験では、落下球にはそれがどんな質量であっても同じ重力の加速度が加えられ、自由になった玉はその加速度方向へ運動速度を速めます。
   玉がその加速度の下に動いた距離、これは“仕事”という量を持つことをわれわれは知っています。つまり重力方向に落下した距離――これを実験では高さあるいは落差と呼びました――は働いた仕事の量に比例することを考慮しました。
 この玉が地球に何をされたか、ではなく、何をしたかに視点をおくとき、質量mのこの玉はmのつくる重力場方向へ地球を落下させようとしてその反力をうけ、地面のほうへ引かれるわけです。
 同様に、この磁性物質である鋼球は、マグネットがつくっていた磁場の中で磁気誘導を生じた磁荷qを持っていて、その磁場はマグネットの磁荷Qを玉のほうへ落下させるのであります5。2つの間に働く力はどちらも、ニュートンの力学的“作用反作用の法則”によって相等しい。4つの玉と一体に群れたマグネット群の質量は少なくとも落下球の4倍はあります。裏を返しますと、落下球の質量はその4分の1であり、同じ力を受けるこの玉は4倍の加速度を得るのです。

熱損失もエネルギー
 ところで、磁場から得た打撃球(落下球)の速度が先述のχ=√(2g) 〔√(H0/0.647)−√() 137p/secであるとしてよいでしょう。すると衝突寸前の玉の速さはυ+χということになります。h=3.4p、H08.4pとして計算してみますと、υ+χ
   =√(2g)(H0/0.647)159.5p/sec…() になります。これから137を引きますとυは22p/secにしかならない計算になりますが、この式を適用するのは妥当ではないからであります。通常ならυ=√(2g)81.6p/secであって、これにχを加えると218.6p/secとなり、これが真のυ+χであり、推測値()159.5p/secはその73%に当たりますが、これはそれだけのエネルギー損失を含んだものとして容認できる値です。
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    不定期便  第108号
貸借の原理
 このエネルギーは何がつくり出したものかといいますと、マグネットでありましょう。マグネットはマグネットの持つ潜在エネルギーの中から、少なくともこのエネルギーを玉に貸し与えたのです。玉は借りたエネルギーをあたかも自分が現実に持っていたエネルギーであるかのように、アンカーたる打球を叩いて最初に持っていた34ミリというエネルギーよりも高い位置まで昇らせたのです。マグネットはこれに相当する分を、最初に持っていた磁力から減らしているはずです。 014.9.8
 マグネットはこのとき貸したエネルギーをいつ、どのようにして回収するのでしょうか。その答えはすでに前頁で述べた、「同じ実験を繰り返すためには、このきつく付いた玉たちを引き離さなければならない。マグネットをやっと単独にさせることができたとき、わたしはマグネットに対し仕事をして返し、マグネットはそれだけのエネルギーを取り返している。」の中にありました。 マグネットはこのマグネットが製造されたとき、潜在エネルギーとして人為的に与え(貸し与え)られました。マグネットはこの借りた潜在 エネルギーから一部を“また貸し”して、顕在のエネルギーをつくり出し玉を引き寄せ、自らの潜在エネルギーを減らしましたが、吸い付けた玉をわたしが引き離すというエネルギーによって返済をうけ、最初の磁気エネルギーを取り戻しています。これがエネルギー貸借の原理です。


<宇宙保存の法則>

 これらの事実から推測しますに、小生は次のように思うわけです。すべては借金から始まっている、と。生まれたばかりの赤ん坊はお金の1円も持っていません。
 われわれは何かを約束することにより現金を借金することがあります。この現金は銀行に預金することができ、このとき手元には何もありません。しかしいつでも現金化することができます。出金した現金を払って物を買い、土地を借りて作物を育て、この自然からの恵みを現金化し、家を建てることができます。その家もいつかは朽ちるのですね。
 このようにすべての財産と負債を合計したものはゼロに帰するわけです。宇宙もまた、宇宙が物質や“場”と呼ばれるものを持ったのは、それぞれ逆の性質――借金――を背負っての出現(実在)なのでありましょう。
   実在の物質6が持つ“物質場” ――重力場、磁場、静電場、幻子――はそれぞれ、それらとは逆の性質という負債を負って出現しています。その負債を含めた総和はゼロである、と考えるのが正しいようです。これこそが“宇宙保存の法則”であると小生は考えているわけです。

 

脚注

*1. 最後尾は4番目の玉であって磁束が減少しているため離れることができる(≧脱出速度)からである。

*. 落下球の速さυに対し、実はマグネットと一体化した群も、υとは逆向きのわずかな速度を持っているはずで、この式ではそれを無視している。

*. もちろん、この状態のまま、さらに別の新しい玉を落下させ衝突させる、別な実験をすることはできる。

 *. ミクロに見れば、玉が引き離されるときマグネットの磁力をつくっている陽子や電子たちは、天邪鬼の性質から、引き戻そうとする向きに、つまり今の磁界の向きに、さらに速く回転しようとする。これが磁力回復の元であると考えられる。

*. このとき玉に生じる磁荷qは、一定ではなくマグネットに近づくにつれて大きくなるだろう。

*. 物質の“重さと大きさ”とは、人が持つ観念に過ぎない。重さは物理学的には“質量”としているが、この質量は空間に満ちている物質場が最も濃く集まった部分で、これはその性質(動きにくさと吸引癖)を極端に凝縮しているため、他の場が締め出されるように働いて、何かがそこにあるかのように思え、これを質量と呼んで物質が存在するように人類は理解しているのであろう。だとすれば、物質たちの正体は空間性質の濃縮物であるから、その大きさというミクロの寸法は存在しない。中心部から外周へしだいに弱くなる場の強さが顕著に変化するあたりを粒子の大きさ(ファンデルワールス半径)と定められているようだ。
  

 
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梅島小学校 プール           提案模型  と  竣工現物       筆者設計 昭和61(1986)年7月
 
  
 
竹ノ塚小学校 プール         筆者設計 平成3(1991)年8月

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