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第5章 未来へなにを遺すのか

 



 

 第5章 未来へなにを遺すのか 

                未来への義務と自戒





 


 

人類が文明を伝承してゆく生物だとして、たとえば自然科学を伝承するには、その時代その時代が負うべき真剣で正直なものでなければならないのはもちろん、どの時代も、無責任な、やりたい放題であってよいわけがない。自然の摂理を究める上で、後世に負担や迷惑をかけることはぜひとも避けたいものだ。
 それゆえわれわれは、正しいものを次世代に受け渡してゆくことになるかを、常に問うていなければならない。学問は当説を守り抜くことではない。疑うべきことを問う、その問は広く知らされ、誰かの恣意や偏見や人気しだいで、問そのものが選別されてはならず、むしろ尊重されるべきだろう。有意な問いかけは発表されるべきであって、正すべきことをその時代に正さないとしたら未来に対して申しわけがない。
 学問することは自由だとしても、受けつがれるべき理想の科学は、それが正しいことでなくてはならないはずだ。しかし、人は正しいことを見つけたつもりでも、必ずしもそうではないことがある。時代の進歩とともに正され、考え直されてゆくものだろう。では、われわれが正しいとしてよいものはなにか? 私は、科学においてのそれは、その理論のなかに矛盾が含まれていないものである、と躊躇なく言おう。発表は従って吟味される義務も負う。ときに批判にさらされることもあろう。本章では現在唱えられている理論で軌道修正されるべきとわたしが思う具体例を見ようと思う。

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