光速の背景 次ページ

第5章 未来へなにを遺すのか

1.物理はいつもそう見えるとおりであろうか?

 おかしな相対速度

 それぞれちがう速度で等速運動するA、B2つの物体があれば、物理的にはどちらが静止しているとみてもよい、と一般に説かれている。これは確かなことだろうか。
 アインシュタインに限らず、現在の物理学が抱く概念について、ホーキング博士の『ホーキング宇宙を語る』ところによれば、「アリストテレスは地球が静止していると考えていた。しかしニュートンの法則から言えば、静止の特別な基準はない」ことになる、という。諸君もこれには大して異存はないだろう。しかし、さらに、「物体Aは静止していて、物体Bが物体Aに対して一定の速さで動いていると言ってよければ、物体Bが静止していて動いているのは物体Aの方だと言ってもさしつかえない」という。これは正しいだろうか。また、「地球が静止していて列車が時速90マイルで北に向かって動いていると言うこともできるし、列車が静止していて地球が時速90マイルで南に向かって動いていると言ってもよい」と説明する。まさか! もしも地球のほうが毎時90マイルで動いているとしよう。地球のその運動量は膨大なもので、止めようとしても一日やそこらで止まりそうもない。一方、列車のほうなら、たった半マイルも走らぬうちに停止できるだろう、それがどちらでも同じだといえるだろうか。
 それから、「物体の運動に関する実験を列車内で行なっても、ニュートンの法則はすべてそのまま成立する。列車内のピンポン玉は線路脇にピンポン台を置いたときと同じニュートンの法則に従う。列車と地球のどちらが動いているのかは確かめようがない」と述べる。このように、互いに相対的な等速運動をしているAおよびBという具合に、2つの物体間の問題として、それは同じことだとよく説明される。
 たしかに、空間にただ2つだけの物体があって、各々の運動速度がどうかということを問題にするとき、どちらかが静止していて他が動いているとも考えられるし、その逆でもよさそうである。各々からみて他が運動してみえるにちがいない。諸君!それはほんとうにどちらも正しいことだろうか?

 この島国が見せる美しい景観のうち、「活き活きとした動き」といえば、例えば天竜下りなども、そうであろう。船明ダムができて以来、行楽としての川下りは6キロほどを1時間とかけないで下るそうである。うしろと前に一人ずつ船頭がつき、案内をしながら下る。だいたいが川は穏やかで、途中、〝天竜しぶき〟が客にかかるところがあるくらいだという。ヘラ漕ぎの音に混じって鳥のさえずりが聞こえるなか、船から見ていると、岸には柳などの樹々が見送ってくれ、天然鮎を目あてに釣り人が並ぶ季節もある。岸辺に咲く白い花は珍しい野性の大文字草で、乱獲のために減ってしまったという。こういう広い風景の中を自分が乗った舟が行くときには、自分が動いていることをたしかに感じるだろう。
 一方2003年現在、世界最大の豪華客船は、1999年11月に就航したカリブ海のボイジャーオブザシーズといい、豪華な船旅が楽しめるという。
14万2千トン、全長310メートル、全高48メートル。15階建てのビルに相当する高さだ。その大きさは悠にタイタニックの3倍!  乗組員1181名、乗客定員3110名と、海上都市といえそうなこの船にはプールはもちろんのこと、カジノ、ウェディングチャペル、ア

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