A  不定期便  第23号
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 そのメカニズムはといいますと、右ネジを右へ進めるときに廻すべき向きに、リング内電流が発生します。すなわち電流の向きは磁石に向かって右廻りです。するとさらに、そのリング内電流はリングの導線を取り巻くような磁場を発生させるのです。この磁場の向きは右回りです。これはエルステッド(ハンス・クリスティアン・エルステッド)が発見した電流の磁気作用の法則です。

 その結果、リングの誘導電流によってリング円の内側にできる磁界は右向き、リング外では左向きとなります。こうして発生した磁場は磁石の磁場と合成されて、合成後の磁束密度は、互いに打ち消しあう円内では疎となり、互いに同方向となる外側では密となるわけです。ところが、磁場にはさらに興味深い性質がありまして、磁場の中にあって電流の流れる導線は、磁束線に垂直な向きに磁束密度の高くなる側から疎になる側へ力学的な力をうけるのです。ちょうど深いほど水圧の大きくなる水中でうける浮力のようなものです。これも自然の性質であり物理法則です。その結果リングはリングの外側から内側へ圧縮されるような力をうけるのです。
 と同時に、リングに起こる反磁場によって反磁場源(この場合リングに生じた反電流)に正面からの“力”が生じ、リングは左へ押されるのです。左への加速度をうけるわけですね。反磁場がつくった力(作用)の反力(反作用)です。この場合、重力場の加速度とは勝手が違うことに、かなり注意を要します。重力の場合には落下の加速度と慣性加速度とは等しいです。重力場は質量がつくります。それに対し、電磁力は質量mのリング全体に対してFなる力を及ぼし、F=mαなるαとして加速度が働くのであって、電磁力Fは質量によってではなく、理論的にはマクスウェル方程式で与えられるわけです。
    要するに外部磁場の変化の強度によって決まるわけです。 その電磁力Fによって、もしmが小さければ大きな加速度αで動こうとし、mが大きい場合にはなかなか動かないことになるわけですが、mが非常に小さいなら容易に大きい加速度で動かされる ことになります。しかし、Fは磁石が接近してくる度合い、つまり磁場変化に従っているから、磁石の接近に応じて素早く逃げるなら、その磁場変化もまた減滅することになりましょう。こうしてリングは磁石から同間隔を保とうとするでしょう(もしもリングが固定されている場合には、磁石の動きに対してはっきりと、右のような電流、磁界、力学的力が生れるわけですが)。
 ですから、もしも電流を起こしている電子の質量が無限に小さい場合、あるいは電場の流れにすぎない場合には、ほとんど位相差のない極めて早い相互作用となって、これが電磁波の伝わり速さというものでしょう。その速さは光速cと同じであると言われます。ファラデーやマクスウェルが予想したcであります。

 場面A こんどは磁石のN極が図2のように遠ざかろうとする場合はどうでしょうか。この場合にも誘導電流は生じます。面白いことに、こんどは減少しつつある磁束を引きとめ、磁石の去るのを引きとめようとする向きに働くのです。 図2 
 すなわちコイルは相手Nに対してS極をつくろうとする向きの電流(磁石へ向かって左廻り)が発生するのですね。磁場状態を変えまいとする、あるいは保とうとする、と言ってもよいでしょう。
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