光速の背景  24 次ページ

 第1章 輝かしい発見
 普通に「電磁誘導」といえば、磁石の運動によってコイルに電流の生じる現象を言うが、ファラデーの最初の発見は一次電流の変化による二次回路への誘導電流の発生である。ファラデーはこれに続いて一次回路の運動によるもの、二次回路の運動によるもの、二次回路と磁石との相対運動によるもの、と次々に実験を行い、見いだされたのが二次回路における磁力線の変化である。この“磁力線”という考え方は、ファラデーの電磁気学を特徴づけるもので、“場”の物理学の端緒となった。この場の物理学はのちに2008年の〝光速の背景の発見につながる。
 1857年、マクスウェルへの手紙の中で、「むしろ電流の流れる針金の周りで電磁現象の生じる“時間”について実験してみたい」と述べ、「その時間はたぶん光の時間ぐらい短いものに相異ありません」と予想している。ファラデーはさらに、途中の空間で起こっている物理的過程を追求しつづけていく。
 一方、大陸側ではアンペールの電気力学を受けつぎ、“場”とは対立する数学的研究が盛んであった。すべてを力の表式で置きかえ、場の存在を認めないドイツのウェーバーやノイマンの研究は、ファラデーとは対象的に、新たな現象に対して新たな力を付け加えていく対応であったため、袋小路に陥ってゆかざるを得なかった。
 ファラデーの“場”の概念に基づく電磁誘導の法則を数学的に定式化したのはマクスウェルであった。二人の手紙のやり取りから、ファラデーはマクスウェルを高く評価していた様子がわかる。ファラデーの場の概念を数学的に定式化した電磁誘導の法則は変位電流の考え方も加わり、マクスウェル方程式へと結実する。それはファラデーが予想した“光は磁力線振動である”という考えを裏づけるように、電磁波の存在を予言し、電磁気学をゆるぎないものとした。のち、マクスウェルが「自分自身で空間を伝播し、保持する作用をもつ電磁波の存在」を予言する。電磁誘導の法則は、力学的エネルギーを電気エネルギーに転換するものであり、19世紀以降の電気技術文明を根底から支えるものとなった。


 名誉を別ける
 1830年 自己誘導の発見  ヘンリー

 磁気によって電気を起こす電磁誘導現象をヘンリー(Joseph Henry 17971878米)が発見したのは1830年夏のことであった。かれは実験室の都合で詳細な実験を翌年回しにした。イギリスではその1年後れて、ファラデー(17911867英)が8月その現象を捉えた。ファラデーは休まず10月、磁石だけで誘導電流を発生させる実験を行なっている。11月、「電磁誘導の法則」と題して発表した。ヘンリーは不覚をとったが、回路の電流が変化するとき、回路自身に起きる電磁誘導現象「自己誘導」の発見を記載した。これはファラデーより早かった。 ところで、筆者の私見であるが、ヘンリーが発見した「自己誘導」は、物質の根源的な性質に関わっており、質量が持つ“慣性”の源泉に関わるものではないかと考えている。「自己誘導」と同様な現象に、超伝導体にひき起こされる永久電流や「マイスナー効果」あるいは磁気浮上という、ふしぎな作用が存在する。こういったことを私なりに「自然の天邪鬼(あまのじゃく)」と呼んでいる。この引けば引き、押せば押す働きが物を形づくる“物性”をつくり出しているのではないか。この天邪鬼性は究極的に自然の空間へ関わってきて空間に性質を与える根源性であって、これに絡みそうなヘンリーの「自己誘導」の発見は大きな意味をもってくるように私には思える。
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