光速の背景  89 次ページ

第4章 未来への道
と提唱すべきだろう。そうすると、例えば地球上の実験装置においては、地球の重力が圧倒的な重力場として働くだろう。そこでは月の重力や、金星や木星など惑星の重力は無いに等しいはずだ。太陽の重力さえ微々たるものだろう。エーテルに相当する光の絶対座標は地球の重力場に静止することになる。地球上に固定したマイケルソンの装置を用いて観測する場合には、光路差が生じないために、干渉縞のずれは生じなかったのである。太陽の近傍にあっては太陽の重力場に対して光速cをもつだろう。宇宙空間にあってはその空間が宇宙からうける総和としての重力場に対して光速cをもつ、ということになる。およそ、次のようになるだろう。
 宇宙空間の一点の周りに距離rをおいて質量mをもち、速度をもって散らばる天体たちに囲まれる宇宙空間の一点における合計重力場の移動速度はおおまか
  =K∑(mG/r2)   ………………………………… 4‐③
ほどの速度を持ち、この重力場に対して光速cで進むであろう。
 光速cは重力場の強さに応じ僅かずつ異なるかもしれない。③式を無限大に発散させない働きをするKは今のところ未知なる係数、Gは万有引力常数である。この仮説の下では、重力場の移動速度と異なる速度で運動する物体につき、マイケルソンの測定器は速度差だけの干渉縞のずれを見せるだろう。
 ぼくらはいちばん最初に、「物質が光を産む」と考えた。これは最も基本的であり正しいだろう。すると“物質場”なるものが存在し、物質場と光の場とは何らかの関係で結ばれると推理した。
 次に、物体が発光させたとして、その物体と光の場はどんな関係になるのか、という疑問を持った。われわれ物体は光の場に対していかなる速度を持っているか、という問であった。光の場に対して地球が動いていれば、光速にそれだけの違いが観測されるはずであるが、それが見られなかった。
 そこでぼくらは、その空間を海面に遷して考えることにした。すると、海面は一様ではなく部分的な海流が存在し、そういった海面に浮く船舶の相対的な速さがどうなるか、に気づき論じた。魚たちの泳ぐ速さはその魚が泳ぐ海水の、あるかたまりに対する速さである。また、波の速さは船舶の進行速さに関係はなく、海面に対するものであることを見た。
 マイケルソンの実験によっても、海面に対する自分の船の速さが検出されなかったことになっている。
 そこでぼくらは、海面に浮かぶ船舶の本当の速さと、その船舶の浮く海面と海流の関係、海面に対する波の速さについてさっきも論じた。海流υ0 の海面で生まれた海波の、海面に対する速さυは、こちらから見てυ+υ0として観察されるはずであるが、その波がこちらまで届いたときの速さはυになっている。
 あそことこちらの立場を変えても同じである。われわれの海面はあの流域から見て、相対的にυの流れであることになる。われわれの足元に生じさせる波はわれわれの足元に対してυであるから、あの海域から見てやはりυ+υ0のはずである。しかし、この波があそこに達したころにはあの乗組員に対してもυとなっている。あの海域の座標にとってわれわれの船が海流υとともに動いて見えていたとしても、われわれの足元に生じさせる波の速さは(マイケルソンがυ+υとなるはずと考えた波の速さではなく)われわれの海面に対してυなのだ。
 こうしてわれわれが地球の公転速度で動いていると思ったことは、光の場という渦に乗って漂っていただけで、渦に対してちっとも動いていないことに思い当たった。そうであるなら、どんな観測器を用いて計測しても、光速の異方性が観測されるはずはなかったわけである! 光の相対速度を
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