光速の背景 次ページ

第5章 未来へなにを遺すのか
である。大小の質量比m/Mをkとおいた上で②式に①式を入れて計算してみると
  υ=2V/(k+1)
が得られる。Mが無限に大きい場合には分母のkが0になるため、小さい玉の速さは大きい玉の2倍になることがわかる。このことはこれを考えている私という第三者がいて、二つの玉とは別なその第三者が観察したところによれば、小さい玉がきわめて大きい玉にぶつかるときの反発後の速さは逆方向に同じ速さであるが、大きい玉が小さい玉にぶつかる場合には、小さい玉は静止から、大きい玉の倍の速さで撥ね飛ばされるのをみる。
 それにしても、第三者たる私は、正しい場所からそれを見ていたのだろうか? 2つだけの間で同じ速さに見えても、どうやら、第三者から見るとどちらが運動していたかによって明らかにちがうようだ。すこし脱線して、ゴルフボールがはねる速さをみると、クラブで引っ叩かれたときのボールの速さはクラブヘッドの速さのおよそ倍になって飛ぶことがわかる。もちろん、ちょうど2倍までにはならない。それはボールとヘッドの重量比、それからボール、ヘッドそれぞれの反発率にもよる。各メーカーにはその反発率をあげる工夫が必要だ。クラブヘッドの速さもボールの速さも、この場合、地面に立つ人の目から見てことである。

 つぎに、現実の宇宙空間においてA、Bの2つだけでなく、大勢の中の2つであった場合はどうか。この場合、たとえ2つの間で互いに同じ速度にみえても、その後どちらが速度を変えたかははっきりと区別しなければならないことを知るだろう。AがBに対して相対的な速度を変えた場合、結果的にはAからBをみてもBが同じ速度変化をしたとしてみえるかもしれない。しかし他を含めた系全体のなかで言えば、系の中でAが速度を変えることを、Aに対してA以外の系全体が速度を変えることと同じとは言えい。このように、系全体に対してAが変化するのと、Bが変化するのとは、はっきりとちがうのである。2つだけに注目したために「樹を見て森を見ず」の近視眼的な過ちを学者といえども冒してしまったのだ。
 では、その系全体は静止していると言えるのだろうか。そしてそれは何に対して? このことはこれまでは説明されなかったし、説明しようともされなかった。このことを論じるには、現在考えられている単なる幾何学的な(概念的な)考察では解明しえない。この混迷は、第4章第3節ですでに述べたように、“物理”に根ざす“絶対静止空間”の考え方へ修正されることによって、ようやく明快になったことだろう。


 2.物理学はいつ正気にもどる

 時空なる空想

 ふたたびホーキングを引き合いに出すのも気の毒であるが、『ホーキング宇宙を語る』の中でホーキングは「それぞれの観測者はレーダーを用い、電波のパルスを送ることによって、事象がどこで、いつ起こったかを知ることができるだろう」と次のように言う。「パルスの一部は事象にぶつかって反射し、観測者はこだまが返ってきた時刻を測る。そうすれば事象が起きたのは、パルスを送った時刻と、こだまが帰りついた時刻のちょうど中間の時刻だということができる。事象の起きた場所までの距離(時間?)は、光が帰りついた時刻のちょうど中間の時刻、(そこまでの)距離は光が往復についやし

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