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第5章 未来へなにを遺すのか
迫られる告知

 ここまで読者の方は我慢強く、ビッグバン理論と相対論のもつ疑問点を細部にわたって検証することにお付き合いくださった。幸い、それらに代わって提唱されるべきことも見つかった。この恩にわたしが応えるには、これらの通説が誤謬をもつものだとすれば、あえて声を上げることではないか、なにかつけ、そのように努めなければと思う。あるかたへの手紙の中で次のように添えたことがある。
 《天から授かった自分の一生の中で、人が本心から喜んで残せるものは何であるかを考えることは一番大事なことではないでしょうか。
 わたしたちが営む社会でいまなにかを“正される”ことがどんなに困難な時代にあることでしょうか。近世以前は科学体系も学術機構も複雑ではなかったためか、誤っている理論から正されることは比較的容易でした。現在では学府や研究機構も複雑化し、封建時代のように権威階級組織で固まっています。
 現在の物理学のように、ある間違っていることを核として出来上がっている科学では特に面倒です。そこへ難しい尾ひれがついて一面的には適合しそうなものが思いつきで付け足されています。その付け足したものの他面に矛盾があっても平気で反省がなく、指摘されても見直されません。見直されないまま誤謬の上に誤謬が塗り重なって膨らみつつあります。目立つ部分があればその部分だけ削って全貌が形づくられてゆきます。いずれ修繕不能となるでしょう。
 同じようにしてできたのがプトレマイオスの(地球中心の)天文学『アルマゲスト(偉大なる書)』でした。幸いこれは16世紀になってコペルニクスによって正されました。しかし、いま問題にしなければならないビッグバンと相対論はもはや著しく正されにくいところまで来てしまっています。》
 ギルバートの言葉も紹介しよう。1600年、イギリスのギルバートが多くの実験結果をまとめた『磁石論』という本を著したとき、その序文にこう書いている。

《ところで、なぜ私は、この高貴な哲学――その多くのことが、これまで知られなかったものであるために新奇で信じがたく見えるこのこの高貴な哲学をば、人々の目の前にさらさなければならないのでしょうか。すでに他人の意見、権威に従うことを誓っている人々や、すぐれた技術の不合理な破壊者たち、学問のある大ばかもの、言葉主義者、詭弁家、けんか好き、つむじまがりの小人、といった人たちの悪口によって、この高貴な哲学がずたずたにひきちぎられ呪われるかもしれないというのに、です。しかし私は、あなたがた、真に哲学しようとする人たち、知識を書物からではなく、ひたすら事物そのものから求めようとする正直な人たちだけにあてて、新しい哲学の仕方に従って、これからの磁気の原理をば書こうというのです。(『世界の大発明・発見・探検 総解説』より)》


3. これからの物理学

物性の物理――超伝導体の教えるもの

 オランダのライデン大学で低温物理を研究していたカメリン・オネスによる、低温における物質の超伝導現象(電気抵抗がゼロになる)と、これに次いで超伝導状態の試料から外部磁場が排除されることを発見したマイスナーの話は第1章で触れた。

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