光速の背景  114
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第5章 未来へなにを遺すのか
 この先、物理学は超伝導が示唆する“場”の物理学が牽引してゆくであろうと筆者は考えている。わたしが最も謎に思ことのひとつに、物質はなぜ“形”を保ちえて、この形を維持しようとする強大な耐力を有するものであるか、ということがある。その謎めいたメカニズムに底知れぬ興味をひきつけられる。超伝導への理解はその解明への端緒になるものにちがいないと考えている。
 とにもかくにも、超伝導の物理についてあるていどの知識を得ておくことは、多くの分野の研究者の方に多くのヒントを与えてくれるだろう。そのアウトラインを見てゆこうと思う。(興味のないかたは、「物理学上の発見の系譜」まで飛ばされたい)


 低温での物性

試料を低温にしてゆくと、電気抵抗は転移温度でゼロになる。比熱は、低温のある転移温度で急激に変化する。熱電効果をみると、通常導体は温度勾配⊿Tによって電場Eが生じ、その物質の熱電能はE/⊿Tで定義されるが、超伝導体ではそれが転移温度で急にゼロになる。熱伝導率については、物質によって低温につれ減少するものや増加するものがある。あるいは温度によって変化することが分かっている。

グイの実験
 物質は反磁性体と常磁性体に分類される。磁極(水平)のあいだに長い円柱棒の端を差し入れたかたちで天秤から吊るすと、円柱棒の材質によって上向きの力を受ける(反磁性)ものと、下向きの力を受ける(常磁性)ものに別かれる。磁場に対して直角な方向に押されたり引かれたりする力を受けることが見られる。
 円柱棒の片方は強い磁場の中にあり、他端は弱い中にある。このことは磁場勾配によって力の作用が生じると見るべきだろう。グイの実験によれば
  χ=2μ F/B
と得られた。χは帯磁率(ディメンジョンのない数値)、μは真空の透磁率(H/m)、Fは下向きに働く力、Bは磁極間の磁束密度、Aは円柱の断面積である。超伝導体では強度に反磁性的であって、χはマイナス1となる。
 この式によれば、Fに注目すると、B2に比例することがわかる。すべての物質は常反を別にすれば、磁界の強さの2乗に比例していることにわたしは興味を覚える。
 χはノーマルでは10のマイナス5乗から10のマイナス6乗ていどであるから、これに比べるとχ=マイナス1である超伝導の円柱は10の5乗から10の6乗倍もの力が働くことになる。

反磁性電流
 外部磁場があるとき、反磁性体の内部で運動している電荷に外部磁場が作用して反磁性電流が生じると見られている。外部磁場を取り去れば電流も消失する。この反磁性電流は、外部磁場が加わったときに、超伝導物質も含めすべての反磁性体に存在する。
そのメカニズムをわたしは次のように考えている。《いま紙の表面に沿って上から下へ荷電粒子が流れたとしよう。このとき、電流としては紙面に沿って下から上への向きになる。この電流は電流の向きへ進める右ネジの回転方向に磁場をつくる。したがって電流の右側で、紙のおもてから裏へ磁力線をつくるだろう。ここに外部磁場が紙面に垂直に、おもてから裏への向きにかけられたと

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