光速の背景  120
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第5章 未来へなにを遺すのか

表わす。

表面超伝導
 さきに見た、表面超伝導は超伝導体と他のノーマルな金属との境界面では起こらない。表面超伝導の出現は、試料を金属でコートしさえすれば容易に妨げられる。
 第一種の物質では、臨界磁場の大きさよりも大きい磁場の下で起こる。
 第二種の物質では、Hc2より大きい磁場の下で表面超伝導を示すようだ。表面層の拡がりを球についてみると、最初、表面はこの球全体を包むように形成、外部磁場が増すと、この表層はちぢみはじめ、球のまわりに巻きついた帯になる。ある磁場の強さで完全にちぢんで、すっかりノーマル状態となる。他の形では、表層の拡がりは複雑で、外部磁場の方向との関数としては、ほとんどわかっていない。表層の状態は磁気誘導を測定するか、抵抗の減少を測定することによって検出される。
 表面超伝導の出現は、超伝導―絶縁体、超伝導―ノーマル金属、それぞれの境界の相異からおこる。超伝導体―絶縁体に境界エネルギーがあり、表面超伝導の出現をひき起こすであろう。表面超伝導は理論的に複雑な計算を用いて、セント・ジェームス(st.James)とド・ジャンヌ(de Genne)によって予想された。多くの実験的な研究がなされる必要がある。

超伝導状態の本質
 超伝導状態の電子の行動について、物理的な像を描けると、もっとよいであろう。この章では、これらの基本的な考え方をもって、基本的な性質を定性的に説明されることを示す。固体は、それを形づくっている原子の荷電子の行動によって分類される。荷電子が原子にかたく結びついている、固体アルゴンのようなファン・デル・ワールス結晶では、単に中性の原子からできている。シリコンやゲルマニウムのような共有結晶では隣接した原子が、荷電子を共有結合して分け合っている。荷電子が原子に附属しているのではなく、原子から完全に自由になっている金属では、荷電子は試料全体のものであって、試料の内部を自由に動きまわっている。その速度は106msのオーダーである。
 金属の原子は価電子を失って陽イオンとなっている。イオンは規則的な配列、結晶格子を形づくっている。結晶構造はイオンが運動しているので完全に静的ではない。荷電子はイオンとぶつかりながら高速で運動する。以上が金属についてのわれわれの描像である。
 飛び交う電子のむれの中に格子がはまり込んでいることによる。これはノーマル状態、超伝導状態の両方に適用される。またどちらも電子はパウリ排他原理を満足する。パウリ排他原理とはなにか。これは量子論の基本的な仮定で、ある体系で2つの電子は、同一の量子数をもつことはできない、というものである。
 1個の自由な原子では、各々の電子は4個の量子数n、、m、msをもつ。パウリ原理によれば、このある電子のn、、m、msの値は、その原子の他の電子のn、、m、msと等しくなることはできない。
 金属の自由電子については、量子数は運動量とスピンに関するものである。簡単のため以後スピンを無視することにする。金属についてのパウリ原理は、《金属の中の2つの電子は同時に等しい運動量をもつことはできない》。
  各電子の運動量は、イオンや他の電子と衝突しながら結晶内を動き回っているから、連続的に変化する。各電子の運動量は、ある時刻にはパウリ原理を満たすように変化し、1つの電子が運動量をもつなら、他の電子は運動量をもつことはできない。

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