光速の背景  121 次ページ

第5章 未来へなにを遺すのか
 ノーマル状態では電子は互いに自由であって、電子系の全エネルギーは単に各電子のエネルギーの和である。よく知られた“自由電子モデル”の仮定であって、ノーマル状態の広範囲の性質を理解することができ、このモデルの本質的な正しさは疑問の余地がないことを示す。超伝導状態では、電子間の相互作用を、もはや無視できない。このとき、2つの電子は相互作用で結びついている。対になり、互いに近距離を保っている。電子間平均距離は106 mのオーダーである。この“クーパー対”として知られるものは2電子“分子”と考えると便利である。すべての対は等しい全運動量をもつ。運動量の2つの電子になるクーパー対の、全運動量はで定義され、この全運動量は単に重心の運動量である。それが の対になったとすると、全運動量はで最初の対と正確に等しい。これら4個の電子の運動量  はみな異なり、パウリ排他原理に矛盾しない。すべてのクーパー対はそれぞれ全運動量として等しい価をもつ。
 ノーマル状態において、イオンの格子は電子の運動の障害物の役割をし、電子はたえず格子に衝突する。電子―格子の間の効果は、ゼロでない全運動量pを格子に伝えることである。格子に対する運動量の損失を記述する式は
   dP/dt= P/τ         ………………………②
である。τは時間のディメンジョンをもつ量で、実験的に決定される。
 一様な静電場Eは電子系に対しマイナスNeEの力を及ぼす。Nは電子数。電場による電子系の運動量の変化の割合は、ニュートンの第2法則からdP(t) dtfield ― NeE となる。定常電流の条件は②と等しく置くことでP()=NeτE となり、電流は
   I=eP/m =(Neτ/m)E     …………………③
 これから抵抗がm/Neτに等しいオームの法則が導かれる。電子がイオンの格子に対して運動量を失う過程を、格子のある種の性質と温度とを用いてτを表わすことができる。運動量p(その速度υ=p/m)とエネルギーp/2mなる電子が格子と衝突してp ― qに変化したとすると、エネルギーは(p ― q)/2mとなり、エネルギー保存の法則から
   /2m(p  q)/2m =格子に失われたエネルギー
 固体物理学によれば、粒子が運動量qを格子に失えば、その失われたエネルギーはsqに等しい。sは固体内の音速。するとp/2m  (p  q)/2m = sq これを変形してみると
   υ=p/m  s+(q/2m)   ………………………④
となる。

超伝導状態では
 超伝導状態ではクーパー対はすべて等しい全運動量をもち、それを質量2m、電荷マイナス2eの単一の粒子として考えると、④式は
   υ=s+(q/4m)          ………………………⑤
 υはクーパー対の速度。υ<sのクーパー対によって運ばれる電流は格子によって減速されることなく、すべてのクーパー対が等しい全運動量をもつ。試料を流れる抵抗ゼロの電流は、その金属中での音速sよりも小さい共通の速度で運動しているクーパー対によって運ばれる。

マイスナー効果
 
電磁気学では、荷電粒子に静磁場がかかっているとき、この粒子の運動によって生じる磁場が外部磁場と反対になるような粒子の運動を生じることが示される。自由荷電子は反磁性的であって、外場を打ち消そうと
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