光速の背景  122
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第5章 未来へなにを遺すのか
する。金属のノーマル状態では多数の自由な荷電子、電子が存在するから、強い磁場を生じることが可能であると思われよう。しかし、パウリ原理によって、電子はすべて異なった運動量をもち、多くが積み重なって効果を弱める。事実、電子のつくる磁場は互いに打ち消しあい、ランダウ反磁性として知られるものは非常に弱い。ところが超伝導状態では多数の自由荷電子、クーパー対がすべて等しい運動量をもっている。磁場を加えたとき、クーパー対はこの外場を打ち消すように互いに強め合って、強い反磁性を生じることが可能である。
 厚い平板の表面に平行に磁場が加わっている場合を考え、表面から内部に向かっての距離をχ座標とする。量子力学の基礎的な結果から、電荷マイナス2e、質量2mなる運動量がゼロの自由粒子に一様な静磁場が加わっているとき、χ点での磁束密度B(χ)は
  2(χ)/d χ2 =(μ0 2/mV)B(χ) ………………⑥
を満たす。Vは粒子が含まれる体積。もし粒子が存在しなければ右辺はゼロ。つまりB(χ)=一定で、外部磁場の磁束密度に等しい解を持つ。(だがd2(χ)/dχ=0ならdB(χ)/dχ=一定、であって、B(χ)は定率増加、減少がありえるのでは?)
 この方程式で、侵入度を(mV/μ0 21/2 に等しいとすればロンドン方程式に正確に等しいという。自由電子が磁束を排除しようとする傾向をもつことが確かめられる。しかし、電子のeとmで置き換えた1個のクーパー対にすると、体積1㎥に対してさきほどの侵入度は106 mのオーダーになってしまう! 1個の粒子では、磁束を排除するにはまったく有効でないことを示している。超伝導試料では多数のクーパー対が存在し、1/Vをクーパー対の密度Nで(そのようなことをしてもよいのか…)置き換え、⑥式の代わりに
   (χ)/d χ =(μ c /m)B(χ)  ……………⑦
だとする。

磁束の量子化
 円環を流れる永久電流の磁束の量子化も、運動量の役割はこの円環の中心を通り、これに垂直な軸のまわりの角運動量にとってかわられる。量子力学によれば、任意の粒子の角運動量はプランク定数hの整数倍をとる。(hのディメンジョンは角運動量のそれと等しい)。クーパー対の共通な角運動量の値はhn。完全な円環では、中心からの距離rにのみ依存する。rにおける電流密度はJ()。電流マイナス2e、質量2mをもち等しい角運動量をもつ粒子に対しては、⑦式にあたる量子力学の方程式は
   Φ() =(角運動量/2e)+(2πrm/Nc )J()
となる。Nは粒子の密度、Φ() は半径rの円を貫く磁束。この式でクーパー対の角運動量としてhnを入れると
   Φ() =hn/2e+(2πrm/Nc )J()   ……………⑧
となる。電流密度J()は磁場の侵入する領域に限られ、円環の内部には電流はない。で、円環の内部にある円周については、J()はゼロに等しい(?)とすることができるという。
 ⑧式からΦtotal =hn/2e
これが磁束の量子化である。

境界エネルギー
 超伝導―ノーマル状態の境界領域という考え方は、クーパー対の密度の空間的な変化という考えでまったく簡単に説明される。ノーマル状態でクーパー対は存在せず、超伝導状態の領域ではクーパー対の密度は一定、外部磁場などに依存する値をとる。超伝導状態の領域にゆくに従い、ク          122  
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