光速の背景  123
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第5章 未来へなにを遺すのか
ーパー対の密度は徐々に増加する。
 ノーマル領域から境界領域にはいるにつれて、非磁気エネルギー密度は徐々に減少し、減少の起こる距離を通例ξと書かれ、“コヒーレンスの長さ”として知られる。
 磁気エネルギー密度は境界領域にはいるにつれて、一定値に達するまで連続的に増加する。クーパー対の磁束を排除する効果によるものである。
 全エネルギー密度を求めるには、磁気的および非磁気的エネルギー密度を加えればよい。全エネルギー密度はノーマル領域と超伝導領域とでは等しい。超伝導領域での磁気エネルギー密度は、ノーマル領域に比べ非磁気エネルギー密度と正確に補償しているのである。この2種のエネルギー密度を加え合わせると、2つの異なった極限が得られる。λ≪ξなら磁気エネルギー密度は非磁気エネルギー密度の減少よりもすみやかに増加、このため正確に打ち消しあうのではなく、全エネルギー密度が山状に増加する。λ≫ξのとき、反対に境界領域で非磁気エネルギー密度のほうがまさっているため、境界領域で凹み状に減少している。
  λ≪ξなら境界エネルギーは正、物質は一種
  λ≫ξなら境界エネルギーは負、物質は二種

対にならない電子とエネルギーギャップ
 超伝導状態でも、クーパー対になっていない電子が存在することは可能である。ノーマル状態の電子のように自由であり、ゼロでない抵抗をもち、弱い反磁性を示すにすぎない。超伝導状態の特性はクーパー対によって生じる。
 クーパー対のエネルギーは、対にならない電子のエネルギーより、クーパー対の結合エネルギーだけ少ない。クーパー対を対にならない電子に分裂させるには、エネルギーが必要である。全運動量ゼロのクーパー対を運動量pとマイナスpをもった2個の別々の電子に分解したとする。これら2個の全エネルギーε()とすると、そのグラフは、天井から垂れそうな水滴の形(断面形)をして、その最低部は2⊿だけ横軸(運動量軸)からエネルギー値の高いところにある。その図に示されるようにε()はけっしてゼロにはならない。クーパー対をこわすために必要な最小のエネルギー2⊿が存在する。
 絶対零度では、すべての電子はクーパー対をもっている、とするのが新しい理論の中心的な仮定である。ここでは対にならない電子は存在しない。 クーパー対の密度は1028/m3のオーダーである。しかし、金属にエネルギーが供給されると、対にならない電子となってこわれるからである。
 ある粒子が振動数νの電磁波からエネルギーを吸収したとき、hνだけエネルギーが増加する。hν=2⊿になると急激に増加するであろう。振動数ν=2⊿/hのときの抵抗の急激な増加は鋭く、温度が上がってくると、対にならない電子の数が増加し、クーパー対の数が少なくなる。
 エネルギーギャップはまたトンネル効果にも現れる。絶縁体の薄層(~108m)をへだてて2つの超伝導状態の試料を置き、両側に電圧をかけると電子は加速され、(トンネル効果を起こし)一方の側から他方に(障壁を通って)通過することができる。完全にこの電流は、対にならない電子によるものであるが、クーパー対が通過することができるためには、隔壁がはるかに薄いことが要求されることが見出されているからである。
  障壁に加えられた電位差の効果は、一方の側を1電子あたりeVだけ高める。eV<⊿ならクーパー対をこわすに不充分。eV=⊿ならクーパー対はこわれ、障壁を通ることができる。そこでV=⊿/eとなったとき電流は鋭く増加する。低温で最も鋭く、温度が上がってくるとクーパー対の数

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